URBAN MACHINERY Inside Modern European Cities

少し戻って、技術のイノベーションが都市に与えた影響。The MIT Press, 2008年刊です。
この本は、ヨーロッパ都市の近代化に<技術>が与えた影響を論じた13編の論文より構成されています。
35話(13番の鉄道)の続きでみると、14番のIron Steamshipがライン川沿いの都市立地に与えた影響、16番のElectricityがヨーロッパ都市に与えた影響、17番のMotor vehicle(+15番のInternal combustion engine)がヨーロッパ都市に与えた影響などです。自動車の影響はあまりに一般的ですが、16番の電気は一旦都市をエンパワーしたあとディスエンパワーされた(電力が中央化され都市による制御ができなくなった)ことが述べられていて興味深いです。3.11のあとの都市を考える素材の1つになるかもしれません。
しかし本書の中で最もおもしろかったのは船舶技術の進展と河川開発によって、最初はライン川河口部のマインツに中心性があったものが次第に上流部のマンハイムへ、ストラスブールへ、ついにはスイスのバーゼルへと成長都市が移っていったことを述べた第2章(Taming the Rhine:Economic Connection and Urban Competition)でした。そしてそうした都市間競争が、単なる経済的な競争のみならず国をあげての政治的・地政学的勢力争いの面が加わるなど、たいへん興味深い内容です。日本が「黒船(=14番のIron Steamship)」の力で開国し横浜港が横浜という都市の基礎となったのは、成長の求心力がマンハイムからストラスブールに移ろうとしていた頃でした。
本書ではこれらのほかに、近代建築・近代都市計画の都市への影響なども<技術>の観点から論じられていて、これまであまり例がない図書に仕上がっています(編著者の2人の専門は歴史学と技術史)。<技術>の観点といいながらもその都市への影響を多角的・動的にとらえているあたりが、本書の魅力ではないかと思います。