EVENTS AND URBAN REGENERATION

ANDREW SMITH著、2012年、Routledge刊。副題がTHE STRATEGIC USE OF EVENTS TO REVITALISE CITIESとなっていることからわかるように、本書は、都市再生のためにイベントを戦略的に使うにはどうしたらよいかについて、オリンピックも含めたこれまでのさまざまなイベントをていねいにレビューし考察したものです。と解説すると、「そういう本はいろいろあるんだけどね」といった疑問も湧いてきそうですが、本書は実践的かつ理論的・包括的に構成されており、これまでにない特長をもった内容に仕上がっています。
第一に、理論的枠組みが明確です。第1〜3章でかなりしっかり議論がなされ、第4〜9章の構成も「イベント主導型再生(新施設の場合/施設の更新の場合)=第4章」「イベントテーマ型再生(物的再生=第5章/社会的再生=第6章)」/「ポスト工業社会の新しい方向=第7章」「観光開発=第8章」「再生の実現=第9章」といった具合に、章ごとのテーマと位置づけが明確です。
第二に、基本的にはすべて都市計画的視点から描かれていて、一般図書とは一線を画しています。例えば7月29日の日経新聞「ニュースの本棚」でも紹介されている『オリンピックと商業主義』(小川勝著、集英社新書645、2012.6刊)も興味深い内容なのですが、このあたりは第9章でより広く都市づくりの立場から<公民の役割分担><コミュニティ・多様なステークホルダー><財源><都市計画メカニズム>などに分けて整理されており、財源の部分では1851年のロンドン万博の際に儲けが出てそれをサウスケンジントン一帯の事業(ロイヤルアルバートホール建設等)に使ったなどという例を出しながら、再投資により都市開発が行われたことなどをしっかりとりあげています。また、オリンピックに限った考察は『OLYMPIC CITIES』(Routledge,2007刊)でオリンピックごとになされていますが、本書のほうが都市計画的アプローチに特化しています。
第三に、ケーススタディーが豊富です。特に、ポスト工業社会の復活にうまくイベントを活用した事例として評価されているバルセロナイエテボリマンチェスターニューオリンズが気になるところです。また、2005年まではロンドン市長の存在はたいへん弱かったものの2005年の招致決定後を長期的に評価するとその影響力の大きさがわかるだろうといった観点も示されており、興味は尽きません。
第四に、「本書の限界」が最後にまとめられ、補完できる文献紹介がていねいになされています。さきの『OLYMPIC CITIES』もその1つですが、Urban Studies,42(5/6)の特集Culture-led Urban Regenerationなどが紹介されています。
最後にやはり本書の魅力は、メガイベントばかりでは特殊すぎ、小さなイベントをたくさん分析しても都市に与える影響がつかみづらいと考えられる中で、「メジャーイベント」の活用を都市再生の観点から多角的かつ体系的・長期的に分析したところにあると思います。今回のロンドンオリンピック。いろいろなイノベーションに出会えることが楽しみです。