テククロジーとイノベーション 進化/生成の理論

W・ブライアン・アーサー著(有賀裕二監修/日暮雅通訳)、みすず書房2011.9.22刊。
本書の内容は原題の「THE NATURE OF TECHNOLOGY What It Is and How It Evolves」そのもので、日本語訳のイメージとはかなり違います。とはいえ、原題のままでは目に留まらなかったはずのこの本。なかなか出会えない驚きの書です。
特に、「What It Is」について、これだけ丹念に1つ1つの論理と観察を積み上げて説得力ある新しい「ものの見方」に到達しそれを滑らかな文章で書ける(訳者にも感謝です)こと自体に、凄みを感じます。
「テクノロジーとは目的のために現象をプログラムすること」。ジェット機を例に細部のテクノロジーが組み合わされ「現象」があらわれるさまを描写する部分には迫力があります。この定義を拡大し法律や音楽なども「テクノロジー」ととらえるとさまざまな可能性がでてくる、と述べる部分にも新鮮さが光ります。
テクノロジーというものが人間くさい「応用科学」であるどころか、それが遺伝子のように、自らの意志があるかのように進化・生成するというものの見方が筆者の基本的視点です。テクノロジーは「応用科学」などではなくテクノロジーを使って科学は進化する(両者は共生して共進化する)との見方は、経済がテクノロジーを使うのではなくテクノロジーが経済を生み出すという見方にも展開されていきます。
都市イノベーションの観点からみるなら、テクノロジーによって現代都市は進化・生成しているのだとの見方につながります。前回の『MAKERS』の記事(⇒第70話)では、そのあたりをまとめてみました。

この本のすごさはなかなか短い文章では伝えられません。イノベーションというものの本当の実態をリアルに観察するための道具として、とても重要な図書だと思います。