THE EVOLUTION OF GREAT WORLD CITIES

CHRISTOPHER KENNEDY著、UNIVERSITY OF TORONTO PRESS 2011刊。副題はUrban Wealth and Economic Growth
都市が繁栄するためのインフラストラクチャーの重要性を主要な着眼点としつつ、大都市間の競争と都市内部の富の蓄積を歴史的に読み解いたチャレンジングな図書。
新たな理論の提示というよりも、これまでの優れた論考を引用しながら組み合わせて、いくつかの事例をいくらか深堀りして論じています。
内容は、「都市間競争で生き残り富を蓄積できた都市とは?」「富は都市内にどのように蓄積されてきたか?」の2つにより構成されています。
前者は、ピーター・ホールやフェルナン・ブローデルの論考が主として組み合わされ、これにノーマン・グラスの理論等が付加されて論じられているもので、第9話ジャック・アタリの議論とも重なるほか、第40話の技術が都市に与えた影響と関連しています(産業革命後の汎用技術の多くがインフラストラクチャーに関係していることを改めて認識させられます)。
後者については、ケインズジェイン・ジェイコブズらの論考を踏まえて、都市における消費の重要性とその意味を論じています。あえてわかりやすくまとめると、
「では、富を蓄積した都市の富はどのようになっているのか。それは、不動産の形で保有したり金融資産として世界に投資してさらにそれが長期的にみれば価値を増進させているのだ。不動産の形として典型的なのはニューヨークの5番街で、そこには超富裕層たちが不動産の形で財をなしており、たとえば1916年に総合的ゾーニング条例が導入された際も、組織を結成して働きかけ、工業用途が周囲から進入し財産価値が損なわれそうになっていた彼らの不動産の価値を守り増進させるためのゾーニングにしている。戦後についていえば、アメリカで典型的な低密度の郊外そのものが、新しいライフスタイル実現の場であると同時に財を蓄積する場所となってきたのだ(リーマンショック後のこの課題を論じたのがリチャード・フロリダの第2話)。そうして蓄積された富はバブル崩壊のような短期的変動はあったとしても長期的にみればさらに蓄積される傾向にある。」
このように要約してみて、ふと8月24日のIWI(Inclusive Wealth Indicator)の記事が気になりはじめました。GDPのようなフローの「生産」面で経済をみるのでなく、「生産」で得たものを何に「消費」したかが重要で、その「消費」された姿こそが都市のインフラや建物や文化、そこに集まる人材の能力となっているとの見方です。