勇気ある決断

フェリックス・ロハティン著(渡辺寿恵子訳)、鹿島出版会2012.12.15刊。
副題には「アメリカをつくったインフラ物語」とありますが、「インフラ」にはいわゆる道路や鉄道、運河等のハードだけでなく、本書では領土の買収や復興金融公社、国民に開かれた大学など、国づくりの基礎となった重要かつ基礎的な仕組みも含みます。著者のロハティン氏は投資銀行家。その能力の高さから請われて公的機関の財政危機を救う仕事に携わるなどの経歴をもちます。本書はこうした著者の個性が発揮され、アメリカが大国になる過程で行った10の勇気ある決断をピックアップし、それらが単なる財政支出でなく国の将来に対する投資だったとの観点から、ユーモアも交え、国際的視点も豊富に織り交ぜながら10のストーリーを展開します。
第2章(第2話)のエリー運河は、この読本の84話琵琶湖疏水」でもとりあげた話題。さまざまな無理解・反対勢力に対して将来の投資効果を巧みに語り、時間をかけて実現にまでこぎつけるまでのストーリー展開には勇気を与えられます。この、第2章、第3章(大陸横断鉄道)、第4章(ランドグラント・カレッジ)、第5章(ホームステッド法)あたりが、ちょうどアメリカが建国後西へ西へと国土を拡大していった時期と重なり、アメリカ建国物語としても読める部分です。ただし著者のまなざしはクールで、不正の実態や理念からの乖離なども公平に描写していきます。いや、「公平」というよりも、ある意味「10の勇気ある決断」が「単なる財政支出でなく国の将来に対する投資だった」との視点から事の成り行きをリアルに評価しているといえます。
国家レベルの重要な投資にまつわる企画、将来ビジョン、説明、事業化のための資金集め、会社の設立、法案づくり、かけ引き、連携、資金回収、挫折、復活、情熱、正義、実利、公的位置づけを獲得していくまでのプロセス、評価などについての、ロハティン氏でなければ書けない10のストーリーです。