近隣計画の運用(その8) 国立公園内の近隣計画 The LynPlan (North Devon)

近隣計画第5号。エクスムーア国立公園内の、海岸べりの小さな美しい保養地Lyn(丘の上のLyntonと河口にあるLynmouthがセットで町の中心部をつくっている)一帯のタウンパリッシュによる近隣計画です。
今まで維持してきた店やB&Bが突然やめて地域経済にダメージがないように、また、町のニーズとかけ離れた過度な開発やアフォーダブルでない開発、周囲に悪影響を及ぼす開発にならないように、政策・方針をきめ細かく規定しています。特に「Viability」という独自の尺度を設けてその開発の適正さを客観的に判断する「open book」方式をとっていることが特徴です。
(近隣計画)http://www.exmoor-nationalpark.gov.uk/planning/planning-policy/?a=254305

ここでは、近隣計画制定後1年間の運用につき、原則毎月第1火曜日午前に開催されているエクスムーア国立公園都市計画委員会の議事資料を見てみます。
http://www.exmoor-nationalpark.gov.uk/planning/planning-committee
LynPlanを参照したことが明確に読み取れる事例はそう多くはありません。たとえば2013年5月4日の委員会で審議された許可申請は、エクスムーア国立公園Development Planとともに、その一部としてLynPlanが参照され問題なしとされ許可されました。委員会で審議されない小規模な案件においてもLynPlanは参照されていると思われますが、ここでは問題になっている事例を1つとりあげます。

(取り上げる事例。33頁のフルレポートです)http://www.exmoor-nationalpark.gov.uk/about-us/meetings-agendas-reports/enpa-planning-committee/04-nov-2014/cpa-62.41.14.020.pdf
それは2014年11月4日の議題となったテントキャンプの設置申請です。Caffyns Farmという、ブリストル海峡を見下ろす丘の上の農園で、3月から10月にかけ国立公園を訪れるツーリストに施設を提供しようとするものです。5月からの継続案件で、7月には委員会メンバーによる現地視察も行われました。判断根拠となる政策は、国立公園Development Planの中にも、その一部としてのLynPlanの中にも多数あり、この開発案がそれらに抵触することが事務局資料から読み取れます。また、LynPlanを策定したタウンパリッシュからも意見が出されています。24通の反対、67通の支持、1通のその他意見書も出ています。
事務局案は、8項目の条件を付けて許可とするものです。道沿いの景観の明確化、キャンプ施設内容の明確化、ランドスケープ等、提出すべき図面スケールや尺度等も含めて多岐にわたります。
翌月12月の委員会議事録によると、11月4日の委員会では「public question time」の中で近隣住民や事業者、申請者を含む16名が発言しています。審議の結果、「この申請の不許可を正当化する理由はない」として、事務局案のとおり条件付き許可となりました。

LynPlanは、エクスムーア国立公園全般の都市計画が(日本でいう景観法の側面も含めて)従来通り厳格に機能する中ではじめてその一部として機能していることがわかりました。もしLynPlanが無ければ参照すべき政策が手薄になるという意味での一定の価値はありますが、近隣計画ができればそれでよいのだというものではありません。開発案件ごとにタウンパリッシュとしても、地域住民が個人としても意見を述べ、都市計画委員会の場において総合的に審議され、細かな条件を付して許可している様子が上記テントキャンプの事例からわかりました。
この事例で少し気になるのは近隣計画の投票率が16.9%、「Yes」187に対し「No」45と(支持率80.6%)とあまり数字がよくないことです。このような場合にはなおさら国立公園全体の政策・方針、近隣住民や地元地域の日常的な関わり(をシステムとして促すこと)が重要で、実際、この地域ではそのような力がしっかり働いていることが確認できたと思います。