『「空間」から読み解く世界史』×『Unified Growth Theory』

都市イノベーション2020第80話です。
世界の進化について歴史(前者)と経済(後者)から統合的に読み解いた、それぞれの著者の集大成的作品。これらの背景には、1つ前のアーリの「モビリティーズ」が関係しています。特に前者は世界史を理解するために空間の距離と移動手段に注目しているので、モビリティーズそのものといってよいかもしれません。
ここでは特に後者のモデルに注目します。
後者は、世界の経済成長を統一的理論で説明しようとする野心的試みを集大成した書です。生産がいくらか高まってもその分が人口(密度)増加に結果し、1人当たりの所得が上がらなかった1500年まで(生産も年率に換算するとほんのわずか)。その後の産業革命後、次第に高度な知識が必要となり人材(つまり自分の子供の教育)に投資する傾向が強まり少子化に向かいつつ所得が伸びQOLが上がる世界。さまざまな要因間の相関関係や因果関係を統計的に吟味するなかから得られた成果を、統一モデルの形で体系化したものです。

昨今、先進国のイノベーション速度が鈍く、これまでは先進地とフロンティアとの差をうまく活用することでなし得ていた成長が新興国の成長等により効かなくなり、なかなか経済成長できません。新興国のほうにとりあえずは大きなイノベーションがそれほどあるわけではなく、本モデルによれば人材に投資し(わが子を将来良い職業に就かせたいと思い)QOLを上げる側に力が働くので、人口増も経済成長もやがて鈍ってくる、、、
このような時代(例えば日本)の人への投資はどうなっていくのか? 地方創生も含めた都市イノベーションは何によって可能なのか?
残念ながら、世界の認識を主眼とするどちらの書にもその答えは書かれていません。
けれども、『21世紀の資本』や『モビリティーズ』などと合わせて、これからのグローバルかつローカルなビジョンを考える際には、その手助けとなるのではと思います。

※『「空間」から読み解く世界史』:宮崎正勝著、新潮選書、2015.3.25刊。『Unified Growth Theory』:Oded Galor著、Princeton University Press、2011刊。