東京の鉄道ネットワークはこうつくられた

『首都高物語』の鉄道バージョンであり、 『東京150プロジェクト』の鉄道部門解説書ともいえそうな、元・日本国有鉄道建設局技師による歴史書・解説書・日本型都市イノベーション論。
副題にある「東京を大東京に変えた五方面作戦」が本書を貫くキーポイント。交通新聞社新書080、高松良晴著、2015.6.15刊。
p94に凝縮された運輸省都市交通審議会答申第1号(1956.8.14)の背景と内容。それは一言でいうと「路面電車を廃止し、代替に都心部に地下鉄路線を建設し、郊外私鉄と直通運転を行う」というものでした。これに国鉄の第三次長期計画(1965年度〜)が加わり、これらによる「五方面作戦」により東京の鉄道ネットワークができたことを、1つ1つの技術的積み重ね、社会プロセスを精緻に描写することで350頁を超える内容としています。

おそらく相当な鉄道マニアか土木の専門家くらいしか「読む」人はいないのではないかと思われるこの本ですが、しかしこの本は、日本の都市イノベーションを考えるうえできわめて貴重なものだと言わざるを得ません。
それはようやくこれからの日本のビジョンと鉄道の役割を考える章の、さらに最後の方のp353にきて示されます。「いつの時代も、あらかじめイノベーションの姿、その手順が明確に示されて、労働生産性が高められて来たのだろうか。実態はその逆である。まずは、こういうモノを作りたい、こういう仕組みにしたい、との思いや夢を持ち、その実現に向けて脇目もふらず黙々と努力し、積み重ねた結果が、新しい時代の扉を開き、労働生産性を向上させたのではなかったか。」
そして、「強いから生き残ってきたのではなく、変化に対応してきたから生き残ってきた」とのダーウィンの言葉について触れ、本書は終わっています(p356)。
たいへん技術的な、鉄道という特殊な分野について書かれた本でありながら、その凄さに圧倒され、そこに描かれている歴史に感動さえする良書だと思います。