地域が連携し「住みたい都市」をプロデュースする

「都市イノベーション・next」(全100話)スタート

GNHと都市計画

「信号の無い」GNHの国ブータンは、この10年くらいで大きく変わりつつあります。その変化が最も大きくあらわれていると考えられる首都ティンプーを通して、「GNHと都市計画」という視点で考えてみます。(なお、Geley Norbu氏が書いているBlog(https://geleynorbu.wordpress.com/)が理念的・理論的・実践的にティンプー市の経験をまとめていて参考になります。

①理念レベル : 「公共の福祉」とHappiness
Happinessを「幸福」と解釈するとき、私たちは個人的幸福を普通は考えます。けれどもブータンの幸福観(感)は家族やコミュニティー、地域や国の(ひいては世界の)幸福を含む観念・情動で、都市計画でめざす「公共の福祉(の度合いが高いこと)」に近いものではないかと思います。ただし、「公共」や「福祉」という言葉自体が西洋語を直訳した感じなので日本の実態に合っておらず、さらにいえば、例えば日本の都市計画法で「公共の福祉の増進」というとき、これまではどちらかというと経済的・効率的な都市・地域・国土づくりが主語となっているし、そのことをちゃんと考えてこなかったことを気づかされます。
Geley Norbu氏のBlogには、そろそろティンプー(ブータン)にも都市計画法が必要と書かれています。GNHを高めるための都市計画法がどう起草され規定されるのか、大いに興味が湧くとともに、日本の都市計画法も単なるテクニックとしてではなく、誰が何のために定めるのかを含めて真剣に考えなければと、かえって自らの課題を認識する結果になりました。

②計画レベル : ティンプーのマスタープラン(Thimphu Structure Plan 2008)
Thimphu Structure Plan 2008はGNHを意識しつつ計画されていて、ニューアーバニズム的な内容です(Geley Norbu氏は今はやりのニューアーバニズム他の西洋的なものではなく‘Intelligent Urbanism’なのだと主張している)。GNHの4本の柱(9つの原則)が計画のどこにかかわっているかを対応表によって説明されてもいます。
とはいえ、人口増加により谷に沿って南北に市街地がどんどん広がっていて、自動車も急速に増加。元のままの環境をよしとするなら、確実に自然環境は悪化しているのではと思われます。ただしまだ人口は10万人程度の段階であることもあり、バイパスの整備やランドプーリング(土地区画整理)などにより、なんとか大きな都市問題には至っていません。とはいえ、このスピードで都市開発が進むとGNHにも悪影響を与えるのではと思えるギリギリの線まできていると感じました。
と同時に、たとえば、あれよあれよという間につぎはぎだらけの状態に更新されてしまった(と感じる)メインストリートも、いくらか落ち着いてきたら再整備したり新たなルールを導入することでGNHを高めるきっかけになるだろうとか、「山手」地区ともいえる魅力的なエリアを意識的にさらに魅力的にできそうだなどと、持てるポテンシャルをイメージすることもできます。

③実施レベル: Land Poolingと集合住宅型市街地
マスタープラン(②)の実現手法としてGeley Norbu氏も力説しているのがLand poolingです。仕組みとしても実際の運用としても正確に理解はできていない状態ですが、何ヵ所かそれらしきところを見学してきました。特に事業プロセス面でGNHと関連づけて理解することができそうな気がします。日本の土地区画整理とかなり近いかもしれません。ただし、一般に宅地は大きくとりそこに数階建ての独特な集合住宅が建ち並ぶので、ユニークな景観となります。
そうした集合住宅暮らしのAさんの家におじゃまし、ティンプーの都市生活を少し体験できました。ティンプーの平均所得は地方と比べるとかなり高く(地方平均が10万ヌルタムほどに対してティンプーは30万ヌルタムを超える。2010年現在。3人家族のAさんの家賃は月8500ヌルタムなのでざっとみて年間10万ヌルタム。家賃負担率30%ほどとみておきます。)生活は日本とそれほど変わらない感じがします。むしろ勤務時間は短く、家族の時間を大切に。モノより関係、という感じでしょうか。

3つ書きましたが、やはり①番が最も本質的な部分と感じます。実際にはさらに「利他」を重んじる仏教の実践が生活のなかに深く根づいていて、それがGNHの思想的・実践的バックグラウンドになっていることを、いろいろな形で感じとることができました。なかでも「仏教学の最高学舎」といわれる山の上のタンゴ・シェダを訪ね(日頃の運動不足がたたり、ヨレヨレ。建物は前の地震で傷み修復中。)学生たちと話すなかから、「人のために役立ちたい」という強い思いと、こうした人材が持続的に輩出され国の基礎的部分を支えていることを実感しました。
そうした基本のうえにそれを反映した計画がつくられ(②)、そうした価値を反映して実施されることで(③)、ブータンらしい都市・地域・国づくりがなされてきたし、今後も①②③を包括しながら、都市化や近代化・現代化にいかに対処し「GNHの国」を持続・実現していけるかが注目されます。