『十二世紀ルネサンス』

伊藤俊太郎著、講談社学術文庫1780、2006刊。
私が今パソコンで字を書くことができるのはコンピューターのおかげで、それは元をたどると科学的精神で自然の中からさまざまな法則を発見したおかげで、なぜそれができたかというと宗教や感情に左右されず客観的にものごとを見つめることが可能になったおかげで、それはいつからかというと、、、ということで、本書は「12世紀ルネサンス」にイスラム世界の成果を西欧が学んだことからはじまる、との講義を7回に分けて著者が語った内容です。
12世紀というと日本では保元の乱平治の乱を通して武士の力が台頭し、やがて世紀末に鎌倉に武家政権(幕府)がひらかれる頃のこと。

「都市イノベーション」的観点から3つ、面白いと感じた点を書き留めます。
第一。この「12世紀」を境にして西欧中心科学が次第に圧倒的な力をもつようになるという、この時点そのものに興味が湧きます。それを担った主要中心都市は、トレド(スペイン。その他、カタルーニャ地方も)、パルレモ(イタリアのシチリア島)、ヴェネチア(北イタリア。その他にピサ)でした。それぞれの理由や背景・ルネッサンといえる特徴や内容などが講義されていて、それは2016年初頭の混沌とした状況を別の角度から見る視点も提供していると思います。また、これとジャック・アタリの「世界の中心都市」との接続関係を考えてみる(アタリが世界の中心都市とした9都市のシリーズは、1200年からのブルージュが最初で、それ以前については触れていません。[関連記事]参照)のもおもしろいかもしれません。
第二。講義の第四講の、「12世紀」までのギリシャからの科学の発展経緯が具体的で目を引きます。イオニアやイタリア植民地で起こった科学的思弁⇒アテネアレクサンドリアに至る「ヘレニズム科学」の時代。そのあとビザンツ帝国のもとでギリシャ語がシリア語化された「シリア・ルネッサンス」(5〜7世紀)。中心都市はジュンディー・シャープール(イラン。現在は廃墟)だったとされます。その後にアラビア語化された「アラビア・ルネッサンス」(8〜9世紀)。中心都市はバグダードでした。
第三。12世紀に至る(第一)×(第二)の多様な流れ。結果として13世紀以降、西欧において多様な進化・革新があらわれること。

[関連記事]
・『21世紀の歴史』(都市イノベーション読本 第9話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20110816/1313464730