『PARTICIPOLIS』+『開発なき成長の限界』

『PARTICIPOLIS』は、近隣住民が、都市計画や都市の基本的インフラ整備・維持・管理に「参加」することをめぐる可能性や課題について多面的に議論した興味深い図書です。副題は、「Content and Contention in Neoliberal Urban India」。ROUTLEDGE、2013(paperback 2015)。
インドの諸都市、特に著しい“世界都市化”の動きとスラム居住などの都市問題とが併存する大都市、とりわけムンバイ、バンガロール、ハイデラバード、デリー、チェンナイを議論。中間層の台頭とともに、RWA(resident welfare association)と呼ばれる近隣主体が注目されています。力のあるエリート層の住むRWAは政府に頼らず自らの近隣の価値を維持・増進できるのに対して、貧困層が多く住まう近隣では生存に必要なインフラも確保できず声も通らない状況が描き出されます。基本インフラの民営化もそれに追い打ちをかけます。
ユニークな例として、デリーにはバギダリ(Bhagidari)という近隣が主体となるワークショップスタイルのまちづくりシステムがあり、1341のRWAが登録されています(2002-03)。けれども基本的な法制度の上に構築されたものではなく、他の政治組織とも競合するなど一筋縄ではいかない様子。これはまさに、インド版「Reconsidering Localism」です(⇒参考記事1,2)。
また、『WORLDING CITIES』『CONTESTING THE INDIAN CITY』と合わせて、現代インド都市の新しい動向、とりわけベルリンの壁崩壊後の憲法改正地方自治制度変化、都市のガバナンスの変化、中間層の台頭、経済成長と格差拡大等をかなり正確に把握することができます。
なお、よりマクロな状況については『開発なき成長の限界』(明石書店、2015.12.15刊)で。ピンとこない日本語タイトルは、原題「AN UNCERTAIN GLORY」のほうが著者の気持ちを表していると思います。こちらの図書には南アジアでの位置づけ等も豊富で、ブータン(⇒参考記事3)やバングラデシュとの比較も可能。2016.3.20の諸冨徹教授による書評(朝日新聞)が本書の要約になっています。

[参考記事1]
・RECONSIDERING LOCALISM (都市イノベーション開墾 第39話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20160229/1456728605
[参考記事2]
・近隣計画を立てる気配の無い自治体はなぜそうなのか?
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20160302/1456880824
[参考記事3]
・GNHと都市計画
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20151112/1447297186