WHERE WE WANT TO LIVE

先週スタートした大学院授業「市街地創造論」に関係しそうな、これからの都市にかかわっていくためのたいへん興味深い図書を1つ。
といっても本書は昨日紀伊国屋書店で“発見”したばかりで、まだ読み終わっていません。
RYAN GRAVEL著、St. Martin's Press、2016刊。
題材はニューヨークの「High Line」アトランタ版と言えなくもない「Belt Line」。なぜ本書がおもしろいか、もしかすると重要な都市イノベーションとなぜとらえたかを簡潔にまとめます。

第一。筆者のRYAN GRAVEL氏は修士論文でこの「Belt Line」を提案。修了後すぐさまこの構想の実現に携わりはじめ、15年かけて、かなりの成果を生み出すに至っている。
第二。1996年に開催されたアトランタ五輪前にも数々の関連する提案はあったが、実現しなかった。けれども1999年に提案されたこの「Belt Line」は、地味ではあるが着実に成果をあげている(ようにみえる)。2020年オリンピックを控える私たちにとって他人事とはいえない。
第三。ビジョンの有効性。各論がどうしても先行して「それはムリ」というのが世の常。その中で、このアイデアはアイデア止まりの提案だったからこそ多くの市民や政治家、官僚や民間事業者の共感を集めることができた(らしい)。
第四。第10章において、「High Line」も含む国内外の類似の事例を広く紹介し(かなり厚い。p137-178)、こうした取り組みのもつ意義を続く11〜14章でまとめている。(8章から9章がこの「Belt Line」そのものの事業としての解説部分で、私はまだそこを読んでいるのですが、、、)
第五。最初の5章(75ページまで)で、車依存のアトランタの現実や歴史がかなり綴られている。著者はそのアトランタ郊外でそうした都市のもつ問題を知らずに少年時代を過ごしたが、パリに行ってそのまったく違う都市のつくりに衝撃を受け、「アメリカの郊外化自体は良いことも大いにあった。けれども、今、その弊害を克服する活動に身を投じないと、この現実は決して変わらない」との強い思いで修士論文で提案したことを実行に移そうとした。
第六。ちょうどこの1999年頃というのは、アトランタのみならず全米の主要都市において郊外化の逆減少『THE GREAT INVERSION』が起ころうとしていた(起きつつあった)時期で、そのような大きな都市構造変化と「Belt Line」プロジェクトの進展の関係に何かヒントがありそう。
第七。22マイルにわたる環状のベルトに沿った24の近隣(現在は25)が、アトランタ市が進めてきた近隣計画政策の礎のうえにこのプロジェクトに参画。それぞれの地域の課題を「Belt Line」を媒介として創造的に解いていこうとしている。(6章から7章にかけてが、都市計画を推進する体制づくり。)

熱い思いと実践力がヒシヒシと伝わってくる図書です。