検証・2050日本復活(5)創造・創出化

最後の検証テーマは「創造・創出化」です。このテーマの「検証」方法は意外に難しく、『2050日本復活』で書かれているたいていのことは既に言われているか、この著者が言いそうだと予想できること。また、移民としてやってきた外国人や誘致に成功した外資に頼る話もあまり本質的ではありません。さらに、この著者は日本のさまざまな技術力を称賛し、そのうえに高度な技術開発をシミュレートしていますが、そういう話に着目すると、まさに技術的・手段的な検証になりそうです。
そこで思い切って、ここでは、著者が日本(人)の何に魅力や潜在力を感じているかのみを、本書全体から読み取ることにしました。それそのものが、著者が提案するさまざまな「手段」が達成された際にグローバルに花開く、あるいは少なくとも海外から関心を持たれる、そしてなによりも私たちの生活を豊かにするものと考えられるからです。

第一。著者が初めて日本で暮らした1960年代に妻が「アメリカに帰ったらスシ・レストランをひらかなくっちゃ」などと言い始めたのに対し彼は「まさか。アメリカ人がハンバーガーやホットドッグの代わりに生の魚にかぶりつくなんてことは絶対ないね」と否定。「もし、あの時、妻の言葉に耳を傾けてさえいれば、今頃私は大金持ちになっていただろう」(p298)と反省します。また、著者は日本の「侘び・寂び」にふれ、「変わることのない良質さや静寂、そして尽きることのない新たな発見を呼び起こし、そのすべてが常に新たな価値を生み続けるのだ」(p299)と高くたたえます。さらに、日本の礼儀作法は外国人の目には堅苦しく型にはまってみえることがあるが、それには「他者に対する深い敬意があらわれている」(p299)ともちあげます。
これらをまとめて、「この偉大な国の足元が揺らいでいるからといって、食や芸術、文化、礼節という日本の豊かな価値観がすべて世界から失われてしまうとしたら」「この世の中はとんでもなく貧しい世界になってしまうだろう」(p300)と世界の中に日本を位置づけます。
第二。「日本の超長寿社会を支えているのは、一つは食習慣や生活習慣だ。高いレベルの公衆衛生やきれいな水と大気、健康増進プログラムや日常的な運動といった地域ぐるみの取り組み」(p30)と指摘していることも、いくらか第一の点とかぶりますがはずせません。
第三。「日本は西欧以外で民主主義を成功させた国である。その意味で、アジアをはじめ、世界の途上国の心強い手本となってきた」(p302)と強調しています。第一、第二の点と合わせ、「もともと優れていた日本のソフトパワー」(p40)に着目しているといえます。
第四。これは少し次元が異なりますが、「最も豊かなイノベーションは、主要な大学や企業の研究機関といった既存の枠組みの外側、たとえばマンガやビデオゲームのような主流の企業群から外れた周辺分野において確実にひろがっており、そこでは型破りな発想も受け入れられる」(p179)としつつ、「企業による研究開発投資の増加とイノベーションの進展との間に、直接的かつ密接な相関を示す根拠がほとんどない」という研究結果も紹介しています(同)。
第五。さらにこれは日本という場所の特性との関係ですが、「海に囲まれた日本ならではの巨大エネルギー資源」(p215)の開発に、海の向こうから期待を寄せています。

―ミニシリーズ「検証・2050日本復活」おわり―