『アフリカ希望の大陸 11億人のエネルギーと創造性』

エムボマのゴールシーンを見るような、さわやかでファンタスティックな快作。
ダヨ・オロパデ著(松本裕訳)、英治出版、2016.8.31刊。著者はニューヨーク在住の、ナイジェリア系アメリカ人のジャーナリスト。
ある意味、前記事『Urban Planning in Sub-Saharan Africa』と表裏一体の関係になるともいえる、蟻の目視線からみたアフリカ像・アフリカ論です。「カンジュ」と「しくじり国家」がその根底にある視点・キーワードとなっています。特に「しくじり国家」というとらえ方および訳が絶妙。「しくじり国家(fail states)」は「失敗国家(failed states)」とは実質的に異なるとしつつ、「しくじり国家」に暮らす何億という人々のイノベイティブな「カンジュ」魂が綴られています。

ここでは「都市イノベーション開墾」的視点から、アフリカ(の空間)認識について取り出します。そもそも「アフリカ」とはどういうところか。11頁に掲げられた紀元前5世紀のヘロドトスによる世界地図から話ははじまります。この地図を見るだけでも、人間の世界観が「おお、なんとこういうものだったのか??!!」と思わされるのですが、「ナイル川が発見されるまでには、2000年もの歳月が必要だった」(p10)と述べつつ、すぐそのあとに「もっとも、それを発見と考えるのはおかしな話しだ。ウガンダ東部からエジプトの広大なデルタ地帯まで伸びるその穏やかな流れは、人類が存在する前からずっとそこにあったのだから」として、私たちの空間認識・地域認識というものの性質をあぶり出します。そうした意味では、続く76-77頁に掲載されている2つの図が貴重なものに見えます。p76は「アフリカ分割」がはじまる前の1872年に描かれた植民地以前の王国を示した図。p77のほうが、民族と言語を基準にグルーピングされたアフリカ図(1959年作成)です。
最新の動きとしては、2007年以降グーグルはアフリカの情報を取りこみはじめ、「どうにか2010年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会に間に合わせた」(p13)。
そのおかげで、著者の祖母が暮らすナイジェリアの「イレ・エキティ」という昔ながらの町や、そこから30キロほど離れた「アド・エキティ」という州都も、グーグルを使うとかなりの精度でつかめます。「しくじり国家」に頼れない中、こうしたデジタル革命によりある意味世界最先端の独特な電子取引や決済システムが構築され、雇用が生まれ、経済循環がジワジワと形成されていくさまを描いたのが第6章の「テクノロジーの地図」。けれどもナイロビにあるスラム地域キベラの空間情報はグーグルでもお手上げ。それどころかナイロビ大学の都市計画特別チームでさえお手上げで、「キベラの売店やトタンの家の塊をざっくり「居住区域」と分類しただけだった」(p374)。しかしそのキベラの住民たちは、簡素なGPS機器と「オープンストリートマップ」を使ってキベラの詳細な地図を作成。住民向けに事業やサービスの名簿までつくったことが紹介されています。「この地図には、21世紀のアフリカにおける新たな物語が凝縮されている。国家よりも小さな宇宙を定義しつつ、大きな、ことによるとグローバルでさえあるコミュニティを住民たちの定義で地図に描きこんでいるのだ」(p375)と。

原題は「THE BRIGHT CONTINENT」、その副題は「Breaking Rules and Making Change in Modern Africa」。原文と訳文の息の合ったテンポの良さにも感謝です。