『FROM THE OUTSIDE IN』

CAROLYN T. ADAMS著、Cornell University Press刊、2014。
タイトルだけではよくわからないその内容は、副題の「Suburban Elites, Third-sector Organizations, and the Reshaping of Philadelphia」で少しヒントが得られます。けれどもそれでも十分とはいえないので、以下にこの図書がいかに「都市イノベーション開墾」的かを整理してみます。(前提として書かれていないことも補足します。)

第一。アメリカの都市、とりわけ大都市では所得の高い世帯は郊外に転出してしまい、それらが集まって大都市周辺部に小さな郊外自治体を次々につくることが繰り返され、事業所も郊外や超郊外に転出した結果、中心部は衰退し、破たんする自治体もあるなど、深刻な問題がみられる。フィラデルフィアも例外ではない。中心部に投資がなされない構造が固定されてしまった。
第二。ところが、近年フィラデルフィアではそれとは逆の現象が顕著にみられるようになった。
第三。それは「第三セクター」によるさまざまな特定目的の事業展開による成果としてあらわれている。「第三セクター」というと日本では「あの非効率な、役人の天下り機関」というレッテルが貼られてしまっているが、フィラデルフィアでも“準公的”機関という意味では別の理由で新たな課題に対処できないことが分析の結果わかった(第1章)。別の理由というのはたとえば交通関係でみると、道路も鉄道も維持・修繕コストが財源の大半を占めてしまい新規投資に回せないこと、広域課題に対処すべくつくられた“準公的”機関のメンバーが各自治体等からの代表により構成されているためどうしても公平な決定にならざるをえないためである。
第四。しか本書でいう「第三セクター」というのは、“準公的”機関ではなく、非政府機関であり、民間主導の新たな機関である。第2章には、多数のそうした機関による取り組みが整理されていて、それらは都心部および準都心部に集中していることがわかる(51頁の図3)。Delaware River Waterfront Corporation、University City District、などなどである。
第五。そうした機関の理事会メンバーの多くは現在は郊外(の別の自治体。さらに調べてみると、フィラデルフィアの西に隣接する富裕層が集まる自治体にかなり集中)に居住するエリート層であるが、彼らは機関の運営によって「フィラデルフィアを再生しよう」などと思っているわけではなく、それぞれの機関のミッションを忠実に遂行し、国内において、できれば国際的にもトップレベルの質の高い事業を行おうとしているにすぎない。

これまで、瀕死の都心部を再生しようとする民間版マスタープランの話(デトロイト。関連記事1)や、郊外化の波が反転して「Great Inversion」を起こしている話(⇒関連記事2)は紹介してきましたが、本書のように、郊外と都心部を一体的にとらえ、さまざまな新しい形の「第三セクター」群の活動によって都市再生がこれだけ大規模に進んでいることを紹介した図書には初めて出会いました。

[関連記事]
1.DETROIT FUTURE CITY (2013)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20151210/1449723037
2.THE GREAT INVERSION
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20151225/1451022584