ロンドンイノベーション(1) : London Overground

「ロンドンイノベーション」と題して、都市や都市計画の新しい姿を探ります。

その1。London Overground。
ロンドンオリンピックがはじまった2012年7月25日に一度取り上げた「London Overground」(⇒関連記事)。今回久しぶりにロンドンを訪れて、最もイノベーションしていると感じたのがこれです。ロンドン交通局に移管される路線等にロンドンの立場から「Overground」という呼称を与えつつトータルにブランディングした、「ロンドン地下鉄(Underground)」と対をなす交通サービス。
https://tfl.gov.uk/maps/track/overground
なかでも、「Zone2」と呼ばれる都心周辺部あたりをぐるっと一周するルートを都市計画したそのアイデアとプロセスはいかにもプラグマティックなイギリス的取り組み。「不要になった」「縦割りだった」「ずっと使われていなかった」インフラをクリエイティブに蘇らせたその手腕というかねばりというか、またどこかでゆるい、しかしトータルでみるとすごいその成果のどこがイノベーティブかを簡単にまとめます。

第一。使ってみてはじめてその意義の大きさを感じました。それまでは、「ぐるっと回れる環状線ができてよかったね」くらいに見えていたのですが。
まず、都心に入らないで周回できる。混雑回避という面では、本人にとっても、地下鉄への負荷の面でもプラスです。また、つい先日サンクトペテルブルグ地下鉄テロがあったように、安心安全面で「地下鉄を使わなくても」中距離移動できるのはありがたいこと。
ダルストン、ホクストン、ショーディッチ、といった下町の注目エリアから、ハムステッドヒース(北)やクラッパム(南)などの人気エリアを通ります。
第二。新たなポテンシャルの増大。
シェパーズブッシュに象徴されるように、地下鉄駅と乗り継げるようになることで結節性が増し、巨大モールが立地(時間的関係は未確認)。そうでなくても全体的にインナーシティの利便性がかなり高まったと考えられます。
周回ルートからははずれますが、副都心的結節点にまで成長したストラットフォードへの乗り入れは最重要。そもそも2012年のオリンピックは、失業や荒廃にあえぐロンドン東部地域の再生が目標とされました。そうした地域を貫きつつ国際的ターミナルとなったストラットフォードまで抜けることで、沿線にいろいろな機会が増え、沿線開発も進んでいます。
第三。維持もままならない鉄道路線をある意味「かき集めて」、それでも足りない部分を短期決戦で新設。また、可能な限り既存施設を改修したり、地下鉄等との乗り継ぎ施設を加えるなど、小さな工夫も全部まとめれば相当なもの。駅間が長い場合、沿線開発デベロッパーに資金負担を求めつつ周辺整備。2009年9月に供用を開始した「Imperial Wharf」駅周辺の「チェルシー・ハーバー」開発がその例です。
第四。「Overground」などというこのプロジェクト全体のネーミングだけでなく、ブランディング戦略が徹底しています。

体験してみて、このプロジェクトはロンドンの都心の外側に「新たな回廊」を加えたのだと直観します。そしてその効果はロンドンのさまざまな場所や機会をつなげ、沿線の機能更新を促し、都心に集中しがちな機能を少しほぐすような役割を果たすことといえそうです。
(速度はゆっくりですが)列車は次々にやってきます。乗降客数もうなぎのぼり。「Overground」全部合わせた数字ですが、開業した2007年度が3000万人弱。2011年度に1億人を超え、2015年度は1億8440万人まで増加。今後もいろいろな延伸・改修計画が。成熟社会にふさわしいノウハウが詰まっていそうです。

[関連記事]
・London Overground
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20120725/1343188590

[都市の「新たな回廊」に関連する記事]
・『WHERE WE WANT TO LIVE』(アトランタの「Belt Line」)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20160418/1460979206