ロンドンイノベーション(2) : オリンピックと下町再生

イーストエンド」といえば日本でもある種の固定イメージが湧いてくるものと思われますが、そうした都市問題の山積した地域の再生をどのように果たすかは、以前より都市計画上の大きな課題でした。(1)の「Overground」の環状部が経由する東部地域の代表的名前をあげると、ホワイトチャペル、ショーディッチ、ホクストン、ダルストンなどです。今でこそ「ダルストン、ホクストン、ショーディッチ、といった下町の注目エリア」などと書けますが、それは、「イーストエンド」が21世紀になる頃からジワジワとジェントリフィケーションしはじめ、2005年にオリンピック招致が決まった際、「Overground」などの投資を行って、さらにその動きを下町再生へとつなげようとしたあとの状態です。

ここではダルストンにある「The Print House」を通して、「下町再生」の一例をみてみたいと思います。この「The Print House」。以前「「London」とはどういうところか」(⇒関連記事)で、「「絶大な存在感を示す」ダルストンの元工場に目は釘付け。」と書いたあの建物です。「Overground」のおかげで、ロンドン西部方面からも容易に到達できるようになりました。
元々、1868年に建てられたアート系のペイント工場で、1948年に会社が郊外に移転するまで使われていたものです。この建物に1980年に入居したのが、1977年に設立された「Bootstrap」という社会企業。貧困問題を抱えるこのダルストンにおいて、失業者と一緒になって活動を展開。現在に至ります。1階部分のカフェや屋上ガーデンが目立ちますが、基本的にこの建物(正確には「The Print House」のほか連続する他の2つの建物にまたがる)は地域の雇用を支え起業を促すワークスペースとなっていて、6万平方フィート(5400㎡)のフロアに180社500人ほどのクリエイターや企業などが入ります。職業訓練などのプログラムや地域コミュニティイベント等によって、地域の社会経済に大きく貢献。『Brutus』では「今やこのビルはイノベーションと活気で満ち溢れている」「新しい発想と原動力が人と街を元気にすることを証明した」と絶賛。

この「The Print House」をきっかけに知ることになったのが、「ハックニー・ソサエティ」の「Love Local Landmarks」というプロジェクト。イングリッシュ・ヘリテージから助成を受けて2010年に共同ではじめたものです。
区内にある448の地域的価値のある登録建物を調査し、2013年9月にウェブサイトを立ち上げ成果を公開しています。
http://hackneybuildings.org/about
「The Print House」はその中の1事例にすぎません。「「London」とはどういうところか」では「地」と「図」をめぐる自己問答をしていますが、ある意味、ハックニーでは「図」こそ目立たないものの、ローカルな味わいのある「地」が少しずつ元気と誇りを取り戻しつつあるといえるのかもしれません。

[関連記事]
・「London」とはどういうところか
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150505/1430825902