世界の中産階級

近代都市計画、とりわけ「郊外化」の原動力となったのは、いわゆる“中産階級”の増加だったといわれています。少し前の記事「“太平洋の真珠”リマ再考」においても、そうした特徴のある市街地が形成されているのを確認しました。
最近、「格差拡大」や「中産階級の没落」が大きな話題・課題となっていますが、では、そもそも世界にどれほどの「中産階級」がいるのでしょうか。また、それぞれの国において、どのような形で「中産階級」が暮らしているのでしょうか。そうした階級の増加や減少はどのように都市計画(都市イノベーション)にかかわっているのでしょうか。

そんな有り難いデータは無いのではとあきらめていたところ、クレディスイスが出している「Global Wealth Report」の2015年版(⇒資料)にかなりの頁を割いて「世界の中産階級」を分析していたので、注目すべき点をいくつかあげてみます。
第一。2015年時点の国別中産階級人口は、中国が1億900万人でトップです。2位がアメリカで9200万人(ただし、富裕層を加えた「中産階級以上」で計算するとアメリカが1億2170万人でトップ、中国は1億1510万人で2位)。3位が日本で6200万人、イタリア2900万人、ドイツ2800万人、イギリス2800万人、フランス2400万人が続きます。そのあとがインドで2400万人。以下、多くの国が続き、計6億6400万人。大陸別ではアジアの3億300万人がトップ。これが1つ前の記事の空港の性格変化(⇒関連記事)に関係します。
第二。では、それぞれの国の中で中産階級が占める割合はいかほどか。中産階級率に加え、()内に「中産階級プラス富裕層率」を示します。さらに、{1−中産階級プラス富裕層率}の値を[ ]に示します。1位がオーストラリア66.1%(80.3%[19.7%])、2位がシンガポール62.3(78.3[21.7%])、以下、ベルギー62.1(74.4[25.6])、イタリア59.7(68.3[31.7])、日本59.5(68.6[31.4])、台湾59.4(74.6[25.4])、イギリス57.4(69.6[30.4])。アメリカはというと27位で37.7%(50.0%[50.0%])。中国は36位で10.7%(11.3%[88.7%])、インドは46位で3.0%(3.2%[96.8%])です(表には46か国しか書かれていない)。

年次別変化などをみるともっと多くのことがわかりそうですが、わずかこれだけの数字からも、いろいろな重要な点が示唆されます。
「都市は中産階級が動かす」と考えると、新興国における所得の増加や都市需要のすさまじさを実感します。たとえばインドの中産階級人口は2015年で2400万人とイタリア、ドイツ、イギリス、フランス並みとなったものの国内人口の3%にすぎず、今後人口が15億ほどで世界一となったとき、例えば中産階級が10%になるとすると、1億5000万人。現在は47位以下になっている多くの国にも中産階級が育ち、そうしたニーズに応える都市が必要になってくる。資源もたくさん必要そうです。
「格差」からみると、アメリカの状態は中間が薄く富裕層が相対的に厚い形。このパターンは(意外にも)スウェーデンデンマークに似ています。「一億総中流」といわれてきた日本はまだそれなりに中間層が厚い状態です。

今、『世界の中産階級(The Global Middle Classes)』という本を読んでいます。縮減に向かう都市もあれば爆発的に成長に向かう都市もあるなかで、「中産階級」「中産階級化」「中産階級からの転落」などを量・質の両面からみることで、これからの都市のグローバルな課題の切り口の1つが見えてくるものと期待して。

[資料]
・「Global Wealth Report 2015」
(下記URLに入り、下方の年表から「2015」を選ぶと表示される)
https://www.credit-suisse.com/us/en/about-us/research/research-institute/global-wealth-report.html
(この2015レポートの日本語解説)
https://www.credit-suisse.com/media/production/ai/docs/jp/aboutus/pdf/2015/pr-global-wealth-report-11162015.pdf

[関連記事]
・『Airport Urbanism』
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170622/1498097738

[関連ありそうな記事]
・『21世紀の資本
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150104/1420340297
・ドバイ開墾(10) : ドバイゼーション
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150911/1441933265
アジスアベバ開墾(5) : 中産階級化の兆候〜21世紀後半に向けて
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170107/1483746707

【In evolution】イノベーションの源泉
本記事を上記リスト(人的資本とイノベーション)に追加しました。
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170318/1489800885