『CITIES IN CIVILIZATION』(その2) Book Two

Book Oneでは、人類の歴史史上はじめて花開いた芸術(演劇や絵画、音楽など)が、なぜ「その時代のその都市」においてだったのかが深く追及され、意外な結論が導かれました。
Book Twoでは技術が取り上げられます。そのイノベーションは何故その地域でその時、起こったのか?
最初に産業立地論等の理論的成果が吟味され、どうやら“innovative milieu”という切り口が多くの理論に共通していそうだと結論づけ、Book Twoのタイトルはそれを反映しています。「milieu」は「環境」などと訳されますが、どちらかというと、一定の限られた空間の範囲の中にある、さまざまな資源や蓄積、気運などを指しており、イノベーションはそのような環境で(こそ)起こったのだ、ということが、世界史上の6事例につき詳細に分析されます。逆にいうと、何か突発的なものすごい発明がなされたというわけでない。

内容はまさに、マンチェスターグラスゴー、ベルリン、デトロイトシリコンバレー、京浜工業地帯、の6事例について、「一定の限られた空間の範囲の中に」「さまざまな資源や蓄積、気運など」が生成され、数えきれないほどの小さなイノベーションと、時々起こる画期的なイノベーションが積み重なって、世界史上1回だけの瞬間が生まれたそのさまを再現します。
“innovative milieu”には自律生成型とトップダウン型(あるいは政府介入型)の2タイプがありそう(前者は英米、後者は独日)との議論もなされますが、シリコンバレーも軍事技術との関係も深いなど、あまり明確な結論とはしていません。また、すでにその栄光が過去のものになっている4地域とは異なり、シリコンバレーと京浜工業地帯は進行形。
ある意味、200年ほどしか扱っていないBook Twoのこのテーマからは、確定的な結論は導きにくかったのでしょう。けれども「都市イノベーションworld」的には“innovative milieu”というものの見方に魅力を感じます。何か普遍的な法則を見いだすよりも、6事例それぞれがおもしろく、かつ、例えば京浜工業地帯と他の5事例を比較するだけでも、いろいろな発見のある内容です。特に、欧米以外の京浜工業地帯を分析する第15章では、著者が、これまで知らなかった世界を驚きの目をもって切り込もうとするけれども、なかなか正体がつかみきれないでいる様子が感じられます。逆に、東芝などの企業分析はグローバルになされるのでギクリとさせられるなど、Book Twoに非西洋が1事例はいることで、この種の都市の文明論が将来、真の意味のグローバルなものに発展しそうでうれしく思います。

【in evolution】世界の都市と都市計画
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