『大不平等 エレファントカーブが予測する未来』

ブランコ・ミラノヴィッチ著(立木勝訳)、みすず書房2017.6.12刊。原著は2016年Harvard University Press。タイトルは「GLOBAL INEQUALITY」。副題は「A New Approach for the Age of Globalization」。実際の内容は訳のタイトルより原題と原副題が忠実で内容そのものを表します。というのも、著者が何度も強調しているように本書の意図は予測にありません。むしろ予測はできないのだと戒めています。また、「大不平等」という内容ではなく、まさに「GLOBAL INEQUALITY」。あえて合わせれば、「グローバルな視点でみる不平等の推移 国内の不平等と国の間の不平等」が本書の内容。7月16日の朝日新聞の書評に本書が紹介され、さっそく手に取りました。

本書はピケティの『21世紀の資本』(⇒関連記事1)で扱われていないグローバルな諸国を取り込むことで、世界的な(実際にはアジアを中心とする)中間層の台頭(⇒関連記事2)を数字で示します。「ベルリンの壁崩壊後」におよそ相当する1988年から2008年(リーマンショック前)の所得の伸びに注目すると、超富裕層の一人勝ちではなく、こうした中間層と超富裕層が同程度の伸びになっていること、グローバルで80%の層(上位20%とその次の20%の境目)の所得はまったく伸びていないこと、それはいわゆる先進諸国の中間層に当たる人たちであることを、1本の曲線で示しています(p13)。右を向いた象が鼻を持ち上げている姿に形が似ているため「エレファントカーブ」と表現。本書を象徴する結論です。

けれども、このことはほぼこれまでの認識と一致しているため、本書の結論というより本書の出発点。特に、カーブの意味を過去にさかのぼって解釈することはでき、実際、本書では中世にまでさかのぼったデータも含むさまざまなデータを示して解釈していますが、未来に向かって延ばすことは危険です。とはいえ、「アフリカの国民所得がなぜまだ伸びてこないのか?」「アメリカではなぜこんなに較差がひろがっているのか?」「貧乏なある国に生まれたが故のハンディ(裕福な国に生まれたがゆえのメリットを本書では「市民権プレミアム」と呼ぶ。)を克服するための「移民」という手段はどれだけ正当化されるか?」などをグローバルな視点で考える1つの材料にはなりそうです。

[関連記事]
1.『21世紀の資本
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150104/1420340297
2.世界の中産階級
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170627/1498551901