『CITIES IN CIVILIZATION』(その5) Book Fiveに代えて

千頁に迫るこの図書の最後の50頁ほどがBook Five「The City of the Coming Golden Age」となっていて、これまでのOneからFourを統合して未来を予測しようとする内容なのですが、本書が刊行された1998年から既に約20年が経過しており内容が古くなっています。従ってここでは「Book Fiveに代えて」本書の重要な成果を自分なりにまとめてみます。

第一。タイトルの「cities in civilization」とはどういうことだったか。日本語に直すと「文明の都市」となってしまいますが、それでは意味がわかりません。あえて一言であらわすと、本書は「都市イノベーションの歴史」の本です。そもそも都市というところに文明が花咲くわけですが、その「花咲く」瞬間、キラリと光る「何か」を人類の都市の歴史から抽出して並べてみる。そのキラリと光るものが長く続いたかどうかは問わない。むしろそういうものは少なく、むしろ一度あらわれたものは規範とされ(うまくいけば)別の地域、次の時代のイノベーションにつながっていく。キラリと光るものは、文化芸術の開花、技術革新、都市がぶつかった壁を乗り越えること、の3つに分けられそうである(Book OneからFourがその内容)。
第二。たとえば「文化芸術の開花」といった場合、単に「パリではこんなアーティストが活躍した。よかったネ」で終わらず、なぜロンドンではなくパリだったのか。なぜ音楽ではなく絵画なのか、どのような作家がなぜパリで活躍したのか、「活躍」とはどういうことか、なぜこの都市では「活躍」できたのか、といったことまで踏み込み、システムの確立までとらえています。システムとして確立している状態は、経済的にも社会的にも政治的にも噛み合っている状態であって、そのような「Golden Age」のありさまそのものを「civilization」ととらえています。
第三。そうした都市は、たいていはその時代の先端都市にかかわっている。その時代を先取りするような条件が芽吹いた地球上のある地点・地域にかかわっている。その都市を事後的にみてしまうと「大都市」がほとんどなのですが、むしろそれは結果であって、もともと現代でいうところの大都市だったわけではない。むしろ、先端的であったがゆえにさまざまな人々が集まりさらにイノベーションが起こりやすくなり、結果的に都市が大きくなる場合が多かった。けれども「Golden Age」である期間は案外短く、さらなる大都市になりやすいこととキラリと光ることとは別物である。
第四。従って、次の「Golden Age」がどうなるかを予測することはできない。議論することはできるし、これが「都市イノベーションの歴史」であったと過去にさかのぼって取り出すことはできるが、論理的に、次はこうなるとはいえない。ちなみに、Book Fiveで使われているキーワードは以下のようなものです。「information superhighway」「digital revolution」「‘killer’application」「multimedia revolution」「death of distance」「ICT」「sustainable urbanism」「unequal urban world」。「次はこうなるとはいえない」し、言えてしまったらある意味オワリなのですが、私たちは、P.ホールの成果をもとに、さまざまな形で世界の都市を分析したり評価したり楽しんだりすることができ、また、どこに「次」の芽が出そうなのかを探したり、今いるこの都市で何をどのようにすることが都市イノベーションにつながるのかを考えることはできそうです。 <了>

【in evolution】世界の都市と都市計画
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