『Localism and neighbourhood planning』

Sue Brownill and Quintin Bradley編著、Policy Press2017刊。
近隣計画の5年間の運用も踏まえて、都市計画の世界に「近隣計画」という分野を持ち込んだ意味と意義、効果について広く論じた重要な書。副題に「Power to the people?」と慎重に「?」が付されていますが、基本的には近隣計画の可能性をポジティブにとらえ、新たな都市計画の可能性を拓く議論が展開されます。
15章構成のうち8章は編著者の少なくとも片方が論じているので、この書はオムニバスというよりも、編著者2人の研究成果をまとめた学術書といえそうです。重要そうな論点や本書のおもしろさをいくつか記します。

第一。都市の中に「近隣」を設定することの意味を総合的に論じています。あくまで都市計画的アプローチで「近隣」を設定するわけですが、設定することに伴い、その範囲に入るべき領域とその範囲を誰がガバナンスするかの課題が出てきます。
第二。その「近隣」は同質である場合もありますが、特に大都市部においては複雑さが増す場合が多い。そのような近隣での対処の経験が事例豊富に語られます。近隣計画の策定を絶対的なものとせず、結果的には他の都市計画ツールを用いて融合を図ろうとした例が紹介されているなど、実践的にも興味深いです。
第三。そのようなケースも含めて、多様な運用経験が語られていてそれらを読むだけでも興味深いです。ざっと数えたところ、29の近隣計画の事例が紹介されていました(途中段階のものや結果的に近隣計画にならなかったものも含む)。それらのうち9事例は本ブログでも紹介したものですが、特に、ロンドンをはじめとする大都市部での事例(その多くはまだ近隣計画に結果していない)がさまざまな切り口で取り上げられています。
第四。市場が動きやすい都市計画を近隣に肩代わりさせようとする問題も指摘されてきました。本書ではこれまでに議論されてきたさまざまな問題をできる限り誠実に、できれば証拠をあげてその白黒をつけようと努力しています。けれども、実証はしきれない。実証はしきれないけれども、近隣計画の可能性を、単なる主張としてではなく、5年間の運用を踏まえて論じようとしている点が最も優れていると感じます。

まだまだあげればキリはないのですが、今日、身近な環境を自らかかわりながらより良いものとし、場所の個性を磨き、市場に翻弄されるのではなく住みやすい地域を皆で創造する方法が求められています。本書は、副題の「?」にも注意しつつ、それぞれの立場で読める良書だと思います。なお、途中でフランスやアメリカ等とも比較しており、それだけでも十分意義深い内容だと思います。

[参考]
Localism and Planning (イギリス最新都市計画統合ファイル)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20131223/1387799666