ロンドンイノベーション(5) : 地域企業を支えるワークスペース供給者の実像

昨日の記事『The Future of Planning』で紹介されていた「Delivering affordable workspace: Perspective of developers and workspace provides in London」(PROGRESS IN PLANNING 93号(2014))という文献によって、ロンドンイノベーション(2) 「オリンピックと下町再生」で取り上げた「The Print House」の位置づけなどがわかってきたので少し書き留めておきます。
『The Future of Planning』では、成長に頼らないこれからの都市計画のあり方を模索しています。この論文(著者はJessica Fern)は、開発者に公共貢献を求める「セクション106」という手法で生み出された「アフォーダブルなワークスペース」が制度の意図どおりになっているかどうか、なっているのはどういう場合か、なっていない場合はなぜかについて、ディベロッパー側とワークスペース供給者側双方の調査を行ったものです。
13ケースのうち10は、「オリンピックと下町再生」に出てくるハックニー区。シティーに隣接しながら貧困問題も抱えるという意味で、ロンドン下町らしい場所。

調査結果は意外なものでした。都市計画として「セクション106」を使って生み出したはずの「アフォーダブルなワークスペース」はその多くがアフォーダブルではないと。その理由を調査していくと、多くの場合、ディベロッパー側は開発許可を得るための方便として「セクション106」をとらえており、供給した物件は市場価格で出回っていたり、許可を得たものが途中で止まっていたりと、あまりよろしくありません。NPOがプロバイダーであっても調べた物件は市場価格で供給されていました(Shoreditch Trustの場合)。また、ディベロッパーとワークスペース供給者が綿密な企画なしで組んだ場合もあまり結果は良くない。都市計画の意図とおりにできている例はごくわずかで、それは、計画の初期段階からディベロッパーとワークスペース供給者が「アフォーダブルなワークスペース」にポジティブな価値を見出して供給された場合でした(Acme Studiosの場合)。

著者はこの結果では満足できなかったらしく、論文の最後のあたりで、「セクション106」を用いた13ケース以外の例を持ち出します。それが「Hackney Cooperative Developments(HCD)」。ダルストンの駅近くに自ら物件を所有し(実際には一部所有)、自らプロバイダーとなって数十のテナントに廉価でスペースを貸しています。
「オリンピックと下町再生」で取り上げた「The Print House」を運営する「Bootstrap」もそうしたプロバイダーの1つ。やはりダルストンを拠点としています。
HCDやBootstrapやShoreditch Trustらも加えたプロバイダーらが多数活躍し小さな都市再生に貢献するハックニー区は最近、「Social Enterprise Place」に認定されたという記事も出ています。

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