『コミュニティー・キャピタル論』

光文社新書921、2017.12.20刊。副題は「近江商人、温州企業、トヨタ、長期繁栄の秘密」。
この本が主題としている「コミュニティー・キャピタル論」からそれてしまいますが、売り手も買い手も世間も「三方よし」となる近江商人そのものの普遍性に惹かれ、「都市イノベーションworld」に加えます。
特に、なぜ「近江」商人なのかという点と、どのような商売なのかという点。
前者について本書では、いろいろな説があるとしつつ、近江交通要衝説、楽市楽座などの商売経験説、天領小分割ゆえに外に市場を求めざるを得なかった説をあげます。現地に行ってみるとこれらに加え、天領等で地域が小さく分割されているがゆえに藩政治経済に取り込まれず自由に動き回れた説が強調されていました。また、国の経済政策に入り込みやすかったのではと想像します。
後者については、時代順に高島商人、八幡商人、日野商人、湖東商人が活躍し商売方法にも内容にもそれぞれの特徴がありそれ自体にたいへん興味が湧きます。
都市イノベーション的視点というのは意識して書かれていないのですが、高島商人と盛岡の関係、八幡商人と松前や江刺、そして近江八幡という都市そのものの形成、日野商人と地方拠点形成、湖東商人と大都市近代化産業振興などなど、興味深いテーマがたくさんねむっていそうです。
本書は集団内部のコミュニティー・キャピタルと資本蓄積が分析対象なのですが、「三方よし」精神が作用して都市が成長・成熟していくさまも描けるのではないかとワクワクします。