『文化資本 クリエイティブ・ブリテンの盛衰』(ロンドンイノベーション(7))

2017.10に公表された「世界の都市総合ランキング2017概要版」(森記念財団)では、ロンドンが2位以下をさらに大きく引き離して1位となりました。
「Brexit」であんなに右往左往しているのになぜそんなに引き離せたのか? 右往左往しているけれども最後は「元のさやにおさまりました」などというストーリーもあるかもしれない。いやいや、何を言ってるんですか。単なるタイムラグであって、そのうちロンドンと2位以下との差はぐっと縮まるはずです、、、
などと考えていたとき、本書が2017.11.10に出ていることに気づきました(ロバート・ヒューイソン著、小林真理訳、美学出版)。
そもそも「2位以下を大きく引き離して」の部分をスコアで客観的に説明すると、「経済」「研究・開発」「文化・交流」「居住」「環境」「交通・アクセス」の6分野のなかで、「文化・交流」による差が激しく、それが大きなファクターとなってロンドンが1位になっています。たとえば2位ニューヨークとの差は173.8ポイントですが、文化交流だけで100ポイントの差があります(差の57.5%)。3位東京との差は205.4ポイントですが、文化交流だけで146.8ポイントの差があります(71.5%)。この部分を単純にいうと、「文化・交流の東京のスコアはロンドンの約半分しかない」。ちなみに「文化・交流」は16指標で構成され(22番〜37番)、全70指標の4分の1弱となるため、仮に指標ごとのスコアの割り振りが同じとすると「文化・交流」の差がかなりものを言う評価方法といえます。さらにこの「文化・交流」はスコア差が激しいので、2重にものを言うことになります。

客観的にみるためにはその16指標を1つ1つ点検しなければなりませんが、とりあえずここでは、「2位以下を大きく引き離して」「文化・交流」スコアが飛び抜けるロンドンはすごいネという単純理解型と、いやいやそうじゃないですという懐疑型の2つの面でこのスコア差の解釈を書いてみます。単純理解型では22番から37番の16指標と対応させます。

単純理解型。『パディントン2』観ました?あいかわらずロンドンのブランディング力強いですね(26番ユネスコ世界遺産(100km圏)。ちゃんとシャードも取り上げられていました。パディントン駅はもちろん最終場面近くで(27番文化・歴史・伝統への接触機会)、、、。また世界のファンが増えることでしょう(24番コンテンツ輸出額)。映画に限らず、スポーツも劇場も(30番スタジアム数、28番劇場・コンサートホール数)、美術館や博物館の多様さも(29番美術館・博物館数)やはりジワジワと強くなっています。どれも世界が相手なのです(22番国際コンベンション開催件数、23番世界的な文化イベント開催件数)。しかもロンドンがおもしろいのは、世界中の人々が暮らしていること(35番外国人居住者数、37番留学生数)。訪れたいと思っていること(36番海外からの訪問者数、31番ハイクラスホテル客室数、32番ホテル総数、33番買物の魅力、34番食事の魅力(イギリスの食事はまずいと言われるが幸いにも世界中のシェフが集まる))。以上にかかわるものに投資したり自ら関わりたいと思えること。さきの6分野の「環境」もなかなかのスコアです(25番アーティストの創作環境)。そのような都市こそが「クリエイティブ・シティ」といえるでしょう。
懐疑型。イギリスでは国の政策によって文化さえもが商品化され市場に流通するツールと化してしまった。『文化資本 クリエイティブ・ブリテンの盛衰』ではその顛末が綴られています。ミレニアムの際に(←2000年を国をあげて祝ったイベント)たくさんつくったハコモノ建築は次々と閉鎖されたでしょ。政府が文化に近づきすぎるとこうなっちゃうんです。「クール・ブリタニア」を「クール・ジャパン」などと模倣しているようですが、失敗したことに学んでどうするんですか。「文化・交流」のスコアが高いと言いますが、結局それはネオリベラリズム的な偏った評価でしかないのです。

【in evolution】世界の都市と都市計画
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