『practicing utopia』

最近公開された映画『英国総督 最後の家』で描かれたインド独立時の大混乱。分離独立したパキスタンには難民があふれ、独立したインドにも逆方向の難民があふれます、、、
本書で印象的な場面の1つは、このような中でデリーでは新都市計画(グルガオンを含む6つの衛星都市等を含む)が大胆に構想され、パキスタンにも新首都イスラマバードが新国家の望みを託した新都市としてつくられていく場面です。パンジャブ州の旧州都ラホールがパキスタン側に分離されたため新規にインドパンジャブ州(とハリヤーナ州)の州都としてつくられたチャンディーガルに込められた思いも、国際的な設計思想とも呼応しながら明快に語られます。その後に構想されたムンバイの新都市計画はうまく実現できなかったものの、計画に託された思いが明らかにされます。

今、インドだけ抜き出しましたが、本書でとらえる「ニュータウン」の幅はかなり広いです。というよりも、私(たち)が「ニュータウン」と思ってきた対象はいわゆる先進諸国で実践された有名な特定プロジェクトに限られ、かつ、空間構成や計画技術に特化していた、といったほうがよいかもしれません。
これに対して本書では、ニュータウンが「東側」諸国、すなわち旧ソ連やポーランド、旧東ドイツなどで国づくりの基本として大々的に実践される様子や、世界各国で実践される様子が広く描かれています。

しかし本書の特徴はなんといってもそうした各国事情(各論)にあるのではなく、「ユートピア」としての「新都市」の生成(田園都市論や近隣住区や地域計画など)やその思想的・計画論的変容と進化を、国際的視点で位置づけながら、およそ1970年代がはじまる頃まで論じきっている点にあります。空間スケールは、大都市拡大に伴うニュータウンから首都圏計画の中のニュータウン、国づくりのツールとしてのニュータウン、新しい科学や歴史状況に対応したニュータウン、人口が爆発的に増加する地球規模のアーバニズのなかのニュータウンと多様にみえますが、それらに共通して、今ある都市の状況や課題に対して、そうではない新しい都市のありかたを提案・実践する運動の過程がていねいに語られます。

Rosemary Wakeman著、The University of Chicago Press、2016刊。副題が「AN INTELLECTUAL HISTORY OF THE NEW TOWN MOVEMENT」。
付け加えると、ニュータウン(運動)に対して著者は常にポジティブです。なぜなら、短期間に大量の人々の場所を必要とする状況や新しい都市づくりだからこそ実現できる(と期待される)課題は21世紀の今日もなくなったわけではないのだから。結にあたる章では、1970年代に大きな批判にさらされ事例も減ったニュータウンが再生されていく様子を短く扱ったあと、21世紀に入った現在の世界のニーズや実践例が将来に向け期待を込めて語られています。
20世紀と21世紀をつなぐ、この分野でははじめての重要な書になるのではと思いました。

【in evolution】世界の都市と都市計画
本記事をリストに追加しました。
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170309/1489041168