ロンドンにおける近隣計画の最新動向(7):Ham and Petersham近隣計画(2018-2033)

リッチモンド区の都市計画の中での近隣計画の文脈も含めて興味が湧くところです」とした、当区最初の近隣計画です。今、「当区最初の」としましたが、見たところ、後に続くものはありません。なぜHam and Petershamは近隣計画を策定したのか、なぜ他の近隣では計画策定の気配がないのか? いくつもの状況証拠の積み上げのレベルにとどまりますが、推論していきます。

第一。以前の2017.4.19の「ロンドンにおける近隣計画の最新動向(1):各区のマスタープランとの関係」に、「第一カテゴリーは、近隣計画をしっかり位置付けている区。クロイドン、ウエストミンスター、カムデン、サザク、タワーハムレットの5区が該当します。2017年末に採択予定のケンジントン&チェルシーも加えると6区に。」とし、次の13区を「いくらかは位置付けている」第二カテゴリーとしたあと、「第三カテゴリーは、ほとんど位置づけないか全くふれてもいない9区。以前、「近隣計画」ではない別種のまちづくりが進んでいるからではないか、などの仮説を検討しましたが、さらに分析するとおもしろいかもしれません。この報告書でも、リッチモンド区などで独自の「ビレッジプラン」等の取り組みがあると指摘しています。」としました。リッチモンド区は第三カテゴリーです。
第二。ただし、2018年7月にこの区でも新しいローカルプランが採択されたので、いくぶん変化があった可能性もあります。見てみると、p7に、近隣計画が2011年Localism Actで創設されたことは若干書かれています。そういう意味では「第二カテゴリー」になったと言えなくもないです。
しかし第三。具体的な近隣計画策定につき紹介したページをみると、「(ビレッジプランが既にあるのだから)そのほかに近隣計画で何ができるかについてはよくよく考えてみること(carefully consider what else a neighbourhood development plan could beneficially achieve for their area)を勧めます」とされています。これが「ビレッジプランで十分だ」というニュアンスなのか、「近隣計画は(たいへんな割に)益が無い」という気持ちなのか、「ビレッジプランやローカルプランの体系の中に近隣計画が混じるのはよくない」のか、「そもそも近隣計画をつくると区の方でもいろいろな手続きがたいへんだから控えてほしい」のか。少々聞いただけではわからない部分もありそうです。
第四。そのビレッジプラン。正確にいうと、今回近隣計画を策定したHam and Petershamは「例外」として、他の14のビレッジではビレッジプランがあり、それぞれのプランのうち必要な要素についてはSupplementary Planning Documentというローカルプランを補完する計画をつくってプランの有効性を高めようとしている(ほぼカバーできている)。だから、そのことも含めて「(ビレッジプランが既にあるのだから)そのほかに近隣計画で何ができるかについてはよくよく考えてみること」との文脈です。
第五。では、なぜHam and Petershamだけはそこまでして近隣計画を立てたのか。付属資料も含めると170頁にもおよぶその図書そのものは、最近策定されている他の近隣計画と大きくは異なりません。(Knightsbridgeとは構成が異なり)「政策」を中心に据えつつ「Community Proposal」が別の色を用いて書かれています(そのことによって法定の政策と非法定の提案を分けている)。形式的にみれば、Supplementary Planning Documentはいくらていねいに書いてもそれは区の政策であるのに対して、近隣計画の主体は区ではなく近隣です。それを大きな差とみるのか、「(ビレッジプランが既にあるのだから)そのほかに近隣計画で何ができるかについてはよくよく考えてみるとあまり何もなさそうだ」と考えるのかは、考えの差、動機の差なのかもしれません。具体的敷地提案の部分をみると、近隣計画のほうがよりきめ細かく空間の質にこだわって、「Proposal」も含めて書き込んでいるといえなくもありません。では、実際にどちらがより良いまちづくりになるか、どのような都市計画システムにすれば最適に近づくのかについての検証は、まさに研究課題なのでしょう。