『藩とは何か 「江戸の泰平」はいかに誕生したか』

タイトルから受けるイメージはあまり都市イノベーション的ではありませんが、「これぞ日本の都市が国土レベルの配置とネットワークを伴って誕生した都市イノベーションそのもの」といえそうな重要な書。

藤田達生著、中公新書2552、2019.7.25刊。著者の専門は日本近世国家成立史。

 

これに近い図書として『信長の城』『城下町』がありますが、本書は「日本近世国家成立史」の観点から、現代日本都市・地域・国土構造の起点となった都市の設置、地域システムの改変、国土レベルでの持続的な空間経営システムの構築についてわかりやすく解説した(おそらくはじめての)書。

本書の独自性をまとめると、

第一。歴史学(藩政史)においても本書のような取り組みが意外にもなされてこなかったことが序章(はじめに)で整理されています。

第二。城下町という都市スタイルがいかにイノベイティブだったかが第一章「近世城下町の画期性」で明確に語られます。『信長の城』や『城下町』で個別には扱われていましたが、より実践的・体系的で足元がしっかりしています。

第三。「藩」の公共性が「預治思想」により語られます。天下統一をめざす信長にその起源を見いだし、現代の「地方自治」とも異なる、新しい「国」をつくる中でのダイナミックな地域経営思想のようなものを強く感じます。第2章。

第四。城下町の都市計画そのもの。ただし本書の真髄は、都市計画プラス地域計画。しかも地政学や都市農村計画も含めた、トータルな国づくりの一環としての「藩」という地域開発・経営管理装置のデザインの話。この章(第4章)だけでもかなりワクワクしました。

 

4点書きましたが、まだまだこの書のおもしろさには迫れていません、、、

 

それにしても、現代だったら「そんな金のかかる事業やれるわけないでしょ」と一蹴されそうな大事業を、なぜ計画、意思決定、実行できたのか。その一端は、たとえば第一章の「徹底的な再利用」などからも読み取れますが、もっと知ろう思えば各所にその入口がありそうな、興味の尽きない図書です。