『貧乏人の経済学』

A・V・バナジー&E・デュフロ著、山形浩生訳、みすず書房2012.4.2刊。

原文(英語)のタイトルは訳のとおり。副題は原文が「A Radical Rethinking of the Way to Fight Global Poverty」に対して訳は「もういちど貧困問題を根っこから考える」。

読んでみると、副題の訳はそのとおりですが、「Fight」感が抜けている。けれども、書かれていること自体は「Fight」する方法が力づくとかイデオロギーとかではなく、いわゆる「エビデンスベース」こそおろそかにせず積み重ねることであるとの主張であり、筆者らが継続的に実践してきたことです。本書の著者2人にもう1人加えた3名が2019年のノーベル経済学賞を受賞しています。

 

と書くといかにももとから知っていたような表現ですが、実は、この本の前はおそらく10度以上通っていて、暗い雰囲気とピンとこないタイトルにより、あえて手にしていませんでした。ところが昨日久しぶりに本屋に行ってみようかとブラブラしていると、「2019年ノーベル経済学賞」との帯のついたこの本~というよりその帯~が目に留まりました。誰だっけ?

 

思い出したのは、小学生の頃、少なくとも前半には「牛乳」でなく「脱脂粉乳」を水で溶かしたものが給食に出ていました。Wikipediaによれば、

「保存性がよく、蛋白質、カルシウム、乳糖などを多く含んでおり、栄養価が高いことから、戦後しばらく学校給食に用いられた。学校給食に用いられたのは主にユニセフからの援助品である」

若い方には信じられないかもしれませんが、日本もまだまだ戦災復興から立ち上がろうとしていた時期で、オリンピックに間に合わせようと必死に開発した東海道新幹線も世界銀行からお金を借りて建設したものです。昨日最終回を迎えた視聴率超低迷の『いだてん』では日本ががんばったことばかりが強調されていましたが、戦後の日本はグローバルな枠組みの中で支援され再び立ち上がることができた。本書のストーリー的には「脱脂粉乳」の方で、「新幹線」ではありませんが、本当は両方が重要なのでしょう。

 

本書そのものはあまり“おもしろい”ものではありませんが、「A Radical Rethinking of the Way」との姿勢・方法には共感できます。途上国の問題に限らず、世界都市の一角で蓄積されつつある「内なる貧困問題」を考える際も、人口減少が加速しますます衰退していく日本の(地方)都市を考える際にも「Rethinking of the Way」の多くは共通するものと思われます。ちょうど先週は、「SDGs時代の都市計画を考える ~グローバルな視点から」という原稿ができたところで、その中でアフリカとロンドン(イギリス)と日本の都市計画のこれからを同じ土俵で議論してみたところでした。訳者の山形氏のあとがき(訳者解説)も「アジスアベバにて」とされているのが印象に残りました。

 

[そのアジスアベバについての記事]

・アジスアベバ開墾(1)〜(5) (2017.1)
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