『反脆弱性 不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』

4月14日の日経朝刊「Opinion」欄。「技術革新は家でも起きる」との微妙なタイトルとなっているこのコラムの主旨は、最後のパラグラフ「災厄からは巨大産業が生まれることも多い。世界で始まった壮大なテレワーク革命に日本の企業社会も加わり、「家からの技術革新」に挑んでみる時だ」に集約されています。

ところで、この「Opinion」欄の主旨自体は「そうだよネ」くらいのものなのですが、むしろ、このコラムの中にはいくつものデータや考え方や概念や資料の所在が散りばめられており、なかでも最後の方で紹介されている標題の図書『反脆弱性』に強く吸い寄せられました。「危機を跳ね返し、自分に有利なものにするしたたかさ」とこのコラムニスト(日経新聞コメンテーターの中山淳史氏)が表現するもの。

 

原題は「ANTIFRAGILE」。副題が「Things that Gain from Disorder」。原書は2012年刊。著者はNASSIM NICHOLAS TALEB(ナシーム・ニコラス・タレブ)。日本語訳が2017年6月。ダイヤモンド社。訳者は千葉敏生、監訳者が望月衛。[上][下]ともに、筆者の言いたい放題の様相を呈するこの書ですが(特に[下]の後半)、まあまあ、そうした小さな問題には目をつぶり、もしかすると大きな発見や手がかりになりそうな点に注目することこそが『反脆弱性』の神髄なのですと言っているような図書。まるで砂をすくって砂金をとるようなつもりで「金」にあたる部分を「都市イノベーション・next」的に理解しようとすると、、、

 

第一.「反脆弱性」も「antifragile」もピンとこない。むしろ「Things that Gain from Disorder」という副題が最もわかりやすいところ。リーマンショックも原発事故もそうだったように、「うまくいく」部分をいくら精緻に少しずつ洗練できたとしても、やがてそれらをすべてひっくり返すような「Disorder」に見舞われる。こういう類のことを真剣にとらえる人がいても無視されるのが普通だが、現代性とはこういうところにこそあるのです。と。

第二.遭遇してしまった私(たち)。「危機を跳ね返し、自分(都市や都市生活、結局は「自分」の集合)に有利なものにするしたたかさ」の手がかりを求めてこの本を読んでいる。

第三.いくつか「答え」に近い部分のみ抜き出し並べ変えてみます(少し文章を省略します)

「私の定義する現代性とは、人間が環境を大規模に支配し、でこぼこした世界を几帳面にならし、変動性やストレスを抑えようとすることだ。(上p186)」

「自己修復ができなくなる原因の大部分は不適応にある。人間の構造と環境のランダム性の構造とのミスマッチだ。(上p101)」

「進化のプロセスは変動を好む。発見のプロセスも変動とは相性がいい。(下p96)」

「チェスのグランドマスターはふつう、負けないことで勝ちを得る。私たちは、小さな予防策の積み重ねで、個人的な事故のリスクの大半を緩和している。(下p108)」

「スティーブ・ジョブズは、こんな言葉を遺している。「誰しも、何かに集中するというのは、集中すべきものにイエスと言うことだと思っている。だがそうじゃない。残りの100の名案にノーを突きつけることだ。イノベーションとは、1000のアイデアにノーと言うことなのだ」。(下112)」

なお、[下]の巻末の付録には、より理論的な議論が各種グラフを用いて説明されています。

 

「レジリエンス」の一部であるとともにそこから一歩踏み出す力としての「反脆弱性」。コラムニストの中山氏は、ヒトが本来そうした力をタレブ氏が思っている以上に備えている可能性はないか、と希望を語っています。

 

「都市イノベーション・next」も今回が第50話。次回からは「都市イノベーション・next(2)」へ受け継ぎ最後の50話を綴っていきます。