『無形資産が経済を支配する 資本のない資本主義の正体』

本ブログでも一度だけ「無形資産」にまつわる都市イノベーション現象について取り上げたことがあります(⇒関連記事)。「Uber Eats」を例に、無形資産化という現象に伴う労働分配率の低下を直観する、といったことに着目したものです。

本書『無形資産が経済を支配する』は、「無形資産化」そのものを取り上げ、なぜそのようなことが起こるのか、それはどう評価されるのか、これからの公共政策はそれを踏まえてどういう方向をめざすべきかにつき考察したものです。ジョナサン・ハスケル&スティアン・ウエストレイク著、山形浩生訳。東洋経済新報社、2020.1.30刊。

「都市イノベーション・next(2)」の初回としてはぴったりのテーマと考え、無形資産化がどのように「都市イノベーション・next」にかかわってきそうかを自分なりにいくつかあげてみます。

 

第一.本書の日本語副題「資本のない資本主義の正体」は原著ではメインタイトル「CAPITALISM WITHOUT CAPITAL」に近い。「CAPITALISM WITHOUT CAPITAL」というタイトルはかなり人目を引くものですが、実際には「CAPITALISM WITHOUT CAPITAL」というわけはなく、「CAPITAL」自体の内容がどんどん無形資産化しているという内容なので、日本語訳のほうが正直だと思います。都市や都市計画の立場からみると、ようやく経済学もデザインの価値や良いデザインを生み出すシステムなどの無形資産にも注目するようになったという意味で興味深い傾向だと思います。

第二.そうした場合、「インフラ」の内容も大きく変わってくる。都市のインフラといえばこれまで道路や下水道の建設や最近ではそれらの維持管理・更新などに多大な投資がなされてきました。けれども、無形資産化が進む現代キャピタリズムを展望すると、本当に有用なキャピタルを見つけ出す必要がある(=ソフトインフラ)。広い意味での公共政策においても、特定分野のたとえば「都市計画」においても。

第三.そのとき、「信頼」や「社会資本(social capital)」などが厚ければそうしたソフトインフラはより確かなものになるだろう(本書では「信頼」や「社会資本」を「ソフトインフラのうち最もソフトなモノ」と表現している)。

第四.では、都市における目標とすべき規範は何か。それは、無形資産の「4S」すなわち、スケーラビリティ、サンクス性(埋没性)、スピルオーバー、シナジーのうち、特にスピルオーバーとシナジーにかかわっている。都市、とりわけニューヨークや東京のような大都市に人々が集まるのは、まさに無形資産化しつつある現代Capitalのウマミを求めて吸い寄せられる現象であり、無形資産化が進めば進むほどますます大都市に集中する。そうであるならば、都市計画の目標は古典的なものにこだわるのではなく、そうした新たな無形資産化によるメリットを伸ばす(少なくとも妨げない)ものであるべき、との方向になる。

第五.けれども、無形資産化を伴う新しいCapitalismは、とびっきりそうした能力のあるごく一部の者だけが勝ち組となる傾向にあり、格差を拡大させるのもまた事実である(⇒関連記事『21世紀の資本』)。本書p322では、無形資産化をうまくとらえた土地利用・都市計画に向かう「ナンジャ国」と、旧来型の発想から抜け出せないために沈んでいく「モンジャ国」の未来が対比的に描かれていて、格差拡大問題の是非を問うというよりも、無形資産化という現実をどうとらえどう未来を描いていくかを考える際の手がかりを示しています。

 

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