Sidewalk Labs(グーグル関連企業)の開発基本計画(トロント市)の行方

コロナウイルス感染者追跡のためのセンサー利用について、賛否両論が渦巻く中、グーグル関連企業Sidewalk Labsが打ち出したトロント市ウォーターフロントでの開発基本計画をめぐる議論がだんだん詰まってきています。

と書くと前からよく知っていたかのようですが、実は、最近出た『都市5.0』(葉村真樹編著、東京都市大学総合研究所未来都市研究機構著。翔泳社2020.3.24刊)という図書の冒頭と最後にややこだわりをもって紹介されていたもので、そこには紹介されていない「その後」も含めてその意義と行方につき現時点でまとめてみます。

 

第一.人々のすべてのデータを集めて「人間中心の」都市を運営しようとする『都市5.0』(Society5.0を補う著者らの造語)的なこのプロジェクトは、発表(2019.6.24)当初より主としてプライバシーの侵害だとの観点から強い反対に遭います。

第二.本書の紹介によれば、「地中にセンサーが張り巡らされ、住民の行動はすべて記録される。たとえば、「公園でどのベンチに座ったか、道を横切る際にかかった時間はどのくらいかまで追跡されることになる」という」(p18)

第三.これを受けて、現地政府側との協定においてデータ収集に関して基本計画に修正が加えられた。

(『都市5.0』に紹介されているのはここまで。)

第四.2020年2月には、トロントのウォーターフロント開発全般の責任主体であるWaterfront Trontによる評価書が公表される。これは2019年10月の合意にもとづきテクニカル面での突っ込んだ評価をおこなったもので、ざっくりみると160項目のうち16項目で「支持しない」との内容になっている。この評価書をもとに2月29日に市民協議を開催(されたと思われる)。また、2月24日から3月31日までの予定だったオンライン協議はコロナウイルスの影響で4月9日まで延長された。

(ここから先は次のステップ)

第五.市民協議の結果は、5月20日に予定されているWaterfront Trontの理事会に情報提供され、理事会はこのプロジェクトを先に進めるかどうか判断する。

第六.理事会で「Go」と判断されたならば、1)実施協定交渉(Waterfront TrontとSidewalk Labsの間で)、2)トロント市が市としてこのプロジェクトを支持するかどうかの判断。既に市独自に市民協議を実施しておりその情報も判断材料となる。3)市/郡/州の各層の規制当局によるレビュー、4)行政機関各層による関連諸法令との調整作業が続く。

 

未来都市の構築はテクニカルには可能であったとしても、解かなければならないさまざまな制約がある。とりわけ民主主義国家の場合には国家存立の理念そのものと矛盾する部分も多いため、何が本当に社会に役立つか、どのようにすれば役立つかを1つずつ、未来志向で解いていく必要がある。トロントで現在進行中のこの事例を追跡することで、さまざまな「都市イノベーション・next」の課題が見えてくるものと思われます。