「発明は必要の母である」(『銃・病原菌・鉄(上)(下)』)

「技術の進歩が速かった大陸と、遅かった大陸があるのはなぜか?」について、科学技術史家はこれまで14の説明をしてきたとし、それを分類しつつ吟味したうえ、「こうした表面的な説明では、究極の疑問に答えることができない」(下p78)と一蹴。それに対して持論を展開していく、といったスタイルで(以上は第13章)、文字の発生・普及についても(第12章)、病原菌が人類に及ぼした影響についても(第11章)、進化生物学・生物地理学・人類学の観点から「1万3000年にわたる人類史の謎」(←これが本書の日本語訳の副題になっている)に迫っていくのは、ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄(上)(下)』(草思社文庫、2012刊)。タイトルも表紙も暗い雰囲気でこれまで敬遠していたのですが、コロナウイルス関連のつもりで読むことになりました。

 

そのつもりで読んでみると、病原菌を扱った第11章も確かにおもしろかったのですが、そこに書かれた情報自体はある意味既に知っていたこと。「病原菌は、農業が実践されるようになってとてつもない繁殖環境を維持したといえる。しかし、病原菌にもっと素晴らしい幸運をもたらしたのが都市の台頭だった」(上p377)とのくだりには、ゾッとさせられるものがありますが、、、

 

しかし本書がおもしろいのは、狭い専門性を超えて「1万3000年にわたる人類史の謎」に、著者独特の(ユーモアも感じさせられる)きわめて論理的な(論理的にみえる)歴史上にみられる知見の操作によって、全体を貫く法則のようなものに近づこうとする態度です。標題の「発明は必要の母である」とのタイトルを論じる第13章も、一見「逆でしょ」(ふつうは「必要は発明の母」)と思う「世界の常識」を打ち破る著者ならではの論述が披露され、「そう言われればそうかもしれない」と、いつの間にか思うようになります。

 

端的にいえば本書は、1500年を境に西洋文明が世界を席巻したのはなぜか、という多くの人がだいたいのことは知っている(と思っている)ことに対して、「しかしなぜピサロがインカ帝国を滅ぼしたのか、逆にインカ帝国がスペインを滅ぼしに行かなかったのか」という(ほかの人だったらしない)問答を、歴史をどんどんさかのぼりながら、「言語」「技術」「病原菌」などの要素に分けて論じていき、ついには最後に、「人類の長い歴史が大陸ごとに異なるのは、それぞれの大陸に居住した人びとが生まれつき異なっていたからではなく、それぞれの大陸ごとに環境が異なっていたからである」(下p365)との結論にたどりつく、との壮大な内容です。

このような壮大な物語を「都市イノベーション・next」に入れることに躊躇しなくもないですが、「世界の都市と都市計画」の背景にある大きな基盤のようなものととらえて組み込みます。「都市イノベーション」の通算455話となります。