アルベルゴ・ディフーゾ (大阪と都市イノベーション(その5))

「市街地創造論」の中で毎回(隔年)とりあげている「オガール紫波(しわ)」に関連して、最初の施設「オガールプラザ」の設計にかかわった松永安光氏が『世界の地方創生』という本を出している(学芸出版社、2017刊)のを知りました。この本の副題が「辺境のスタートアップたち」。もしこの副題がなければ興味も3分の1くらいだったと思いますが、「この本を読めば、オガールプラザのような、その地方の特色に合った「建築」や「まちづくり」のヒントが詰まっているに違いない」と思い、さっそく注文。

すぐに届いたので読んでみると、タイトルや副題どおりの味わい深い本でした。特に、最後は「建築」にこだわりつつもそれを単体として活かすばかりでなく地域創生や近隣活性化、地域観光にもさまざまなアプローチ・テーマでつなげている。扱っている地域はアルプス地方からはじまりイタリアの村や集落、ピレネー南麓、ポルトガルのリスボンやポルト、ダブリン、グラスゴー、フィンランドをめぐり、台北・台南など台湾に戻ってきます。

 

なかでも印象に残ったのが標題のアルベルゴ・ディフーゾ。日本語で言うと、「アルベルゴ」が「ホテル」、「ディフーゾ」が「分散」なので「分散型ホテル」。イメージをくっつけると、街中に分散し融合した小さなホテル群。紹介されているのは「街中」といっても有名でもなく、それどころか空き家だらけの廃村のような場所も含まれる。そのようなところに入り込んでいって、メインとなる(決して大きくはない)レセプション兼食堂のようなものをつくる。そして次々と周囲の建物も小さなホテルにしていく。「アルベルゴ・ディフーゾ」となるためには建物内部をよくするだけでなく、屋外にも「住民と交流可能な」オープンスペースをつくり、分散といっても全体が200メートル以内にあることが条件となる。

事例はいわゆる「成功物語」というより「それぞれの」物語。つい、明日にでも行ってみようかと思えてきます。そして、「行ってみよう」というより「やってみよう」とも思わせる。取り組んでいる人たちの個性や思いや仲間とのチームワーク。

 

ふと、大阪西九条にある「世界ホテル」を思い出しました。「SEKAI HOTEL」「セカイホテル」と書いたほうがよいでしょう。木造建物が密集する駅からほど近い一角、それこそ「全体が200メートル以内に」、「受付棟」「ホテル1」「ホテル2」などがディフーゾしていて、まさに「アルベルゴ・ディフーゾ」です。同じ規模、同じデザインのホテルは1つもなく、コンバージョンに次ぐコンバージョンでどんどんディフーゾしている。

ある意味西九条自体が「ディフーゾ」状態といってもよいくらい民泊が集中し、街が徐々にトランスフォームしている。

イタリア語と英語が混じってしまいましたが、「辺境」であれ「大都市のど真ん中」であれ「ディフーゾ」が動的に展開するとき、きっとその街はワクワクする「何か」を発信するのでしょう。