『東京復興ならず 文化首都構想の挫折と戦後日本』

基本理念無きまま(いろいろ言ったが「これ」というものは無い)昨日開幕した東京オリンピック。「下町の再生」を掲げ最後までやり切ったロンドンオリンピックを思い出します。(⇒関連記事)

本書『東京復興ならず』(吉見俊哉著、中公新書2649。2021.6.25刊)はそうしたムードに追い打ちをかけるようなタイトルですが、ここでは、この本の内容にもふれつつ、本ブログの「都市は進化する」の観点からオリンピック後の東京・首都圏などを少し予感します。

 

まず、Ⅰ章Ⅱ章が東京の戦災復興。戦争にかわって「文化国家」を建設しようとした日本ですが、この<文化>という言葉の深い意味のため、明確なビションとならなかった。「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という憲法25条の当初の英文案なども紹介されていて、Ⅰ章自体がおもしろいです。この「文化」をどうとらえるかという議論は今日まで続く難しい話です。Ⅱ章は戦災復興都市計画、なかでも大学が中心となり描かれた「文教地区計画(構想)」が「挫折」していく話。「挫折」とされますが、それ以前の話のようにも感じます。(Ⅱ章も各大学がかかわった「文教地区計画(構想)」がていねいに読み込まれていて、読み物としてはおもしろい。)

第Ⅲ章が、1964年東京オリンピックを前後する東京大改造の話。理想主義の石川栄輝から機能主義の山田正男へと、理念・スタイルが180度変化する。けれども吉見はp169において、「石川と山田の対照は、この二人の都市計画家の都市に対する一貫した思想的違いというよりも、敗戦直後に目指された東京の未来と、経済成長が具体的な現実になり始めてから人々が向かっていった実際の東京の未来との間の対照として理解されるべきものなのである」とします。第Ⅲ章もそのものがおもしろい。

第Ⅳ章。ものすごくスピードが速まります。1970年代に再度「文化」重視に転換する一瞬があったけれども「高度情報化」「金融国際化」に振れてしまう。「文化」は広告化しフローとなる。(この間、いろいろあって)今回のオリンピック。

終章。東京復興ならず「東京は今も焼け野原のままなのだ」(p282)。なぜかというと、「第一に、この二度目の東京五輪は、東京の都市構造を再転換する契機にならなかったばかりか、(中略)経済効果でもマイナスの結果しか残さない」(p287)。「第二に、(中略)そもそもこの五輪の開催は、1964年のときと同様、「復興」よりも「復興の否認」につながる可能性のほうが高かった」(p288)。と独自の厳しい評価が下ります。

 

ところで、「東京の都市構造を再転換する契機にならなかった」との評価に関連して、NHKスペシャル『東京リボーン(1)~(6)』では東京の地下(第2回)、海底等(第3回)、首都高(第4回)、渋谷駅(第5回)の都市構造転換事業が「プロジェクトX」的に描かれていました。機能重視(技術偏重)というか、トレンド追従的な面が強く出ていましたが、「都市は進化する」視点からはとても興味深い内容でした(⇒関連記事)。特に、昨日朝に放映された第6回では新国立競技場の未来への理念のようなものも描かれていて(ストーリーの大半はいかに大屋根をピッタリ仕上げたかというプロジェクトX的内容)、「基本理念無きまま昨日開幕した」オリンピックの成果の一つを感じられた一瞬でした。

 

 

[関連記事(ロンドンオリンピック)]

・ロンドンイノベーション(2):オリンピックと下町再生

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20170407/1491536652

・ロンドンイノベーション(1):London Overground

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20170405/1491383216

PLANNING OLYMPIC LEGACIES

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20140703/1404386372

 

[関連記事(都市の進化)]

・東京の鉄道ネットワークはこうつくられた

 https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20150623/1435038662

 

 🔖検索   「復興   文化」「ロンドン  オリンピック」「東京 ビジョン」

 

 【In evolution】日本の都市と都市計画
本記事をリストに追加しました。
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170307/1488854757