「Early Lessons From Detroit’s Community Benefits Ordinance」

「Right Sizing」に関連してもう1つ。

1つ前のJAPA(Journal of the American Planning Association,87(2))に出ている標記の論文では、デトロイト市のCommunity Benefits Ordinance(コミュニティ・ベネフィット条例)の成果を分析していておもしろいです。タイルから示唆されるように、この条例は、従来、個々の大規模開発が起こる際に「Community Benefits Agreement(コミュニティ・ベネフィット協定)」を結ぶ例は多々みられたなかで、2016年にデトロイト市がはじめて「条例」の形で仕組みをつくり既に10の事例が完了しているので、こうした条例の有効性を検証するにはちょうどよいタイミングである、というものです。ここでいう「完了」というのは、条例のもとで締結するのは実際には「コミュニティ・ベネフィット協定」なのですが、そこには「アフォーダブル住宅の供給」「〇〇人を雇用すること」などのさまざまな約束事が列挙されており(主要なものはp259に整理されている)、それが達成されたかどうかの判断が下せる期間が経過しているというもののようです。10の事例を分析してみると、成功例だけでなく失敗例も見出すことができ、特に労働関係のソフトなものは履行されないケースがみられ、中には不履行に対して罰金をくらったものもあると事例が紹介されています。

 

10事例の概要はp261に示されていてどれも興味深いのですが、なかでも、かつて本ブログで「1988年に空きビルとなって以来、再開発も難しく放置されており、なんとも皮肉なことに「見捨てられたデトロイト」を見るための観光名所になっている」と紹介していた(⇒関連記事1)、8番目の「Michigan Central Station」は見逃せません。この中央駅の再生プロジェクトに伴い締結された「コミュニティ・ベネフィット協定」の中に、「Community development fund」があり、その運用がはじまっているようです。9番目の事例も自動車工場拡張に関連した「デトロイトらしい」事例で興味が湧きます。

 

「デトロイト」の「Right Sizing」というと縮むばかりの「ダウンサイジング」をイメージしがちですが、自動車産業のさまざまな新しい動向を担う世界最先端の地として復活しつつあるデトロイト(⇒関連記事2)。「Right Sizing」とは、決して「唯一の適正なサイズ」があるのではなく、自らの都市ビジョンのもとに、動的に、より良き都市となるように持続的にマネジメントしていく際の目標概念の1つなのだと思います。

 

[関連記事]

1. 10の建物から読みとるデトロイトの物語

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20140317/1395029219

 2.「逆襲デトロイト 自動運転の都へ」

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/2020/02/13/193757

 

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