“中産階級”として都市に住まうこと

「中産階級が郊外をつくる原動力だ」というと、なにか「中産階級」という集団が予めいて、その需要に対応するべく、かつての農地などがディベロッパーによって開発されて「郊外」となった、という単純なイメージが浮かびがちですが、「BOUNDARY WORK : Becoming Middle Class in Suburban Dar es Salaam」という論文が、都市における“中産階級”が出現してくる様子をていねいに読み取っていておもしろいので書きとめてみます。

2018年のInternational Journal of Urban and Regional Researchに発表されたものです(521-536。著者はCLAIRE MERCER)。

 

副題に「Becoming Middle Class」とあるように、タンザニアの首都ダルエスサラームではこれまで少数のエリートと多数の貧困層については「エリート」「貧困層」といった呼び方があったのに対して「中産階級」のような概念は無く(少なくとも当人はそのようには認識しておらず)、郊外部もさまざまな社会階層の人が暮らしているため「中産階級が郊外をつくる原動力だ」のような状態ではない。そのような境界の無い物事に何らかの<区別>をするのがメインタイトルの「BOUNDARY WORK」。例えばデータを用いて「低層で(相対的に)低密度の一定の固まりを有するエリア」とすればそれなりに範囲は「見える化」でき結果として空間的な境界を決めることができるかもしれないけれども、もっとていねいに郊外部でどのように「Becoming Middle Class」になっているかを分析しているところがこの論文のおもしろいところです。調べてみると、「〇〇地区のような密集したところではない」などの否定形により自分たちの住む場所の望ましさを表現したり、「こうありたい」ランドスケーピングなどを努力して行うことなどによってそのような場所にしている。持てる資源は限られているので、その土地を占有したり、占有した土地の権利を確立するためにはかなりの努力もしなければならない。

こうしたリサーチを経て著者は、「Suburbs are not an outcome or effect of middle-class growth ; rather suburbs and the middle classes make each other」との結論を導きます。

 

「Becoming Middle Class」のプロセスを理解するには、1999年のLand ActやVillage Land Actによる土地の流動化や、従来“informal”と言われてきたさまざまな分野でのフォーマル化・半フォーマル化などの近年の動きの理解が欠かせないということで、これらについてもていねいに説明されている点もこの論文の魅力です。

 

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