中心商店街(high street)の8割が住宅に転用されうる新制度が8月1日に発効

Town & Country Planningの7・8月合併号の中に、「our vulnerable high streets – death by permitted development?」と題する4頁の論説が出ています。

日本でも新型コロナの影響で商店街の飲食業などが閉店に追い込まれるなど、「これからの都市のあり方」を真剣に考えなければならない状況もあり、他国の事例としてその固有の文脈も含めて読み取ってみます。

 

まず制度改正について。イギリス(ここではイングランド)の都市計画ではすべての「開発」に許可が必要とされますが、例外の1つに「permitted development right」があり、許可ナシあるいは軽めの手続きで開発が可能です。2021年8月1日より、「MA」という用途クラスが発効しました。この「MA」というカテゴリーには店舗、オフィス、レストラン、カフェ、レジャーなどの幅広い用途が含まれるのですが、この「MA」における住宅への転用がかなり容易にできるようになった、というものです。

次に、シミュレーション(本記事のメインの内容。⇒資料)。ロンドン大学がTCPA(Town & Country Planning誌を出している協会)と組みイングランド4都市の中心商店街でシミュレーションした結果、8割の物件が住宅に転用されうるとの「truly shocking」(p234)な結果になりました。4都市の1つ、ロンドンのバーネット区コールダーズグリーンではこの値が89%と最高値だった。このままでは、人々が都市生活をするのに欠かせないインフラが無くなってしまうのみならず、地域から雇用が奪われてしまうではないか、という論調です。

 

最後に解釈。やや主観的というか達観的に。

イギリスでは特にリーマンショック後、財政が限られる中で民間主導による都市計画が強く模索されてきました。けれども、地方自治体が基本的にその権限をもつ「許可」がしばりとなって、なかなか中央の政策がうまくいきません。これを突破するために「計画」策定そのもののルールを変えたり、「許可」ルールを変えたりと、あの手この手を繰り出してきたその最新版が8月1日発効の新ルールです。人口や世帯がかなり伸びると予測されていることも背景にあります。

一方、2020年以来の新型コロナで中心商店街の飲食業等が閉鎖され「出口」が必要とされていることも確かにあり、それはかなり短期的なもの。むしろ、郊外型ショッピングへのシフトに加えてe-コマースが背後で浸透していたときに新型コロナによる追い打ちがかかり中心商店街が疲弊しているとみたほうがよいと思います。イギリスでは「許可」システムがこうした困った現状を固定する側に強く働いているため、政府としてはなんとか制度そのものを変えて現状を打破したいと。

記事にはそうした背景まではあまり書いていないのでこれらを補って読んでみるととても興味深いです。たとえば、(歴史的保全地区で使われている)「article 4」という規定を使うと自治体独自に「許可」条件を付加できるので、これを使う途を阻止しようと政府からお達しが既に出ていたり、過度な住宅への転用を緩和するため「3か月以上空き家になっていた物件でないとダメ」との条件を最近付け加えたりと。また、筆者(ロンドン大学のBen Clifford博士ら)は、「健康住宅法案」キャンペーンを行っており、より包括的な「住宅のあるべき姿」そのものを底上げしようと考えている様子が綴られています。

 

日本では、この記事で前提としている「中心商店街(がしっかりあること)」そのものが危ぶまれているか、かなり前からそうではなくなっている状況かもしれません。

 

[資料] (TCPAのHPより直接ダウンロード)

https://www.tcpa.org.uk/Handlers/Download.ashx?IDMF=fa299c5c-5424-41d6-b9ef-e699cd3516ff

 

 

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