『NEIGHBOURHOOD PLANNING』(都市は進化する53)

「近隣計画」が制度化されて10年。実践例も蓄積されて、5年を過ぎた頃からこの制度の評価がいろいろとなされてきました。

1行で評価をまとめるなら、「成果はあった。しかし改善すべき点も多い」と月並みな表現になってしまいますが、2020年にROUTLEDGEからペーパーバック版で出た『NEIGHBOURHOOD PLANNING』(ハードカバー版は2019年)は、かなりアプローチの異なった、読み物風でありながら概念を深く吟味しているなどこれまでの評価本にはみられない特徴をもつ興味深い本でした。

副題は「PLACE, SPACE AND POLITICS」。

 

著者はオックスフォード大学の地理学の先生(Janet Banfield)で都市計画の専門というわけではありませんがある意味「かなり近い」専門。オックスフォード市の西方の町に住むこの先生は自らその町の「近隣計画」に(専門的興味もあって)かかわるようになり、悪戦苦闘しながら計画策定のほぼ終盤までさしかかったところまでを本としてとりまとめています。「近隣計画」についての評価本や論文は多いかもしれないけれど、自ら深くまでかかわって書いたのは初めてとされるこの本は、オックスフォード市では収容しきれない人口の受け皿となったこの町からの視点や、開発のためのグリーンベルト解除の是非などの課題を「近隣計画」でどのように受け止められるかをめぐる試行錯誤を、雄弁かつきわめて論理的に語ります。

図書全体が論理的に構成されていて、「近隣計画」ではどうしても<人々の思い>と<都市計画体系の中で書けること>とのギャップが大きくなり住民たちは失望を味わうことが多い現実をどのように克服できるかを、<場所(place)>をめぐるConceptualな面(第2章)、Thematicな面(第3章)、Strategicな面(第4章)、Performativeな面(第5章)に分けて自らの経験(および地理学者としての専門性)を背景にしながら深くかつ前向きに、そして熱く語ります。これまでの「近隣計画」をめぐる評価本や論文のレビューも項目ごとにていねいになされているので、「自ら深くまでかかわって書いたのは初めて」でありながらそれらが逐一研究レビューされているという、あまり見たことのない(こういうのは初めてかもしれない)、この点だけでも読んでみてよいのではないかと思うような不思議な本です。

 

最後に。その不思議さは、最後の「結論」に付け加えられた「近隣計画、その後」の批評(というか反省)にもあらわれます。実は、「近隣計画」の奥深さはここに付け加えられた「近隣計画」最後の手続きがもつ特徴・課題にあるのかもしれません。ある意味、この本は「未完の書」です。もう少し時間が経ち、さらに結果が見えてきたとき、もう一度この本の「続編」を読んでみたいと強く思った次第です。

 

なお、この図書は、「Routledge Studies n Urbanism and the City」というシリーズの一環として出版されたものです。“アーバニズム”という近年関心が高まっている概念のもとに広くグローバルな観点から出版されており、続々と新刊が加わっています。シリーズについては以下のリンクから。

Routledge Studies in Urbanism and the City - Book Series - Routledge & CRC Press

 

🔖検索 直接のテーマは「近隣計画」、広くは「urbanism」

 

[参考]
Localism and Planning (イギリス最新都市計画統合ファイル)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20131223/1387799666