『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』(AIは世界をどう変えるか(その5))

1月22日の日経新聞と朝日新聞に、『時間の終わりまで』という同じ図書の書評が出ていました。書きっぷりは対照的な内容でしたが、即、A社に注文。すぐ届き読んでみた感想としては、両書評とはまったく違うものでした。著者も訳者も書評者も皆、物理学者か数学者なので、「都市は進化する」をめざす私はいわば素人。「時間の終わり」の方ではなく、「今に至る宇宙の歴史を貫く原理」に大きな魅力を感じました。

ブライアン・グリーン著、青木薫訳。講談社2021.11.30刊。

140億年前のビッグバンからはじまり地球ができ生命が誕生し人間へと進化し現在へと至る140億年の歴史を、「エントロピー(の増大)」と「進化」というたった2つの原理から書ききろうとした理論物理学者の大作です。が、決して諸説あるところや未解明の部分は無理やり確定しようとはせず、どのような説があり自分はどう考えるかが真摯な言葉・言い回しによりていねいに書かれています。わからない代表的部分としては、なぜビックバンが起こったか(直前はどうなっていたか)の部分、確定的にはわかっていない部分としては、なぜ無機的な状態から生物ができたのかの部分、自説中心に仮説的に書かれている部分としては、物理的な説明のみで人の「意識」を説明するところです。ある意味、最も知りたいところが最もわかっていない(がゆえに学問への意欲は湧く)。

逆にいえば、それら以外の部分はだいたい「こうだといえます」とつながっている。そのつながっている部分に依拠しながら、以下、「AIは世界をどう変えるか」との関連で1つだけ書きとめます。

理論物理学だけで人間の意識まで説明しようとする「還元主義」は強く批判されてきましたが、とはいえ、誰も「人間の意識」について説明できていない。「AIは世界をどう変えるか(その1)」でとりあげた『相対化する知性』でも還元主義(自然主義)は「同型性のメカニズム」に置き換わるとされている。けれどもその「同型性のメカニズム」はまだかなりアバウトな概念で、きちんと説明されていない。ところがこの『時間の終わりまで』第5章では、「人間の階層の物語」というストーリーを挟み込むことで、最下層の物理的メカニズムはそれとして働きつつ「人間の意識」が働いているとはどういうことかを両立して説明している。一応ギリギリ説明できていると言えなくもない(わかっていない部分はあいかわらずわからないのだが)。つまり、還元主義(自然主義)は「同型性のメカニズム」に置き換わるのでなく、階層性を伴って併存している。この解釈はまだ仮説の1つかもしれませんが、この第5章(へと至る第1章から第4章)に最も惹かれました。

「都市は進化する」を大きく超えるテーマではありますが、「エントロピー(の増大)」と「進化」という大きな原理の中で人類が「都市」を発明しそれがますます地球上の大きな位置を占めようとしている今、最も基本的な枠組み・ストーリーに出会えたと思います。

 

🔖検索 「宇宙」