「(白書) Levelling Up the United Kingdom」をめぐる評価

直近3つの記事において、5月11日から13日の新情報を新法案、都市計画システム構築過程、財源の3つの側面から紹介しましたが、これらは単なる「紹介」にとどまり「評価」まではできていません。

そこで最新の『town and country planning(2022年3月4月合併号)』から4つの論説を選び、評価そのものというより「白書に書かれていることは結局どのように評価されているか」だけをまとめてみます。結論からいうと「1勝3敗」という厳しいものでした。(そもそもジャーナルは批評的に論じるものなので「1勝」というのも言い過ぎで「0勝3敗1分け」としたほうがよいかもしれない)

 

1つ目(p82-87)。「levelling up or dumbing down? that is the question」とのタイトルから既に「あまり持ち上げていないな」との気配が漂うこの論説(このジャーナル発行団体の副理事長)。白書ではいろいろ提案しているが、2010年に政府の地域オフィスを廃止したあとそうした機能をどうつくるかの記述がきわめて薄い、都市計画システムをどうするかは別の検討に委ねられていて「場づくり」に関しては無頓着などなど、さまざまな欠陥があると厳しい。

2つ目(p91-93)。「on levelling up」と抽象的なタイトルのため読んでみないとわからないはずの論説だが、著者は論客で知られるこの団体の元副会長のため、ストレートに批評しそうという予感。2030年までにこれだけのことをやろうなんて、やりすぎだし早すぎる。それ以前に、こんな長い文章を読む人などほんの一握りでしょうと厳しい。

3つ目(p96-100)。大学教授による「assessing the levelling up white paper」。文章は客観的かつ論理的で、そもそも「白書」というのは時の政権の方針である以上その(党の)イデオロギーに基づいている。2024年の総選挙に向けた新たなマニフェストのようだ。地方の改革というが、提案内容は(新たな組織をつくり)地方自治をさらに弱めるものと言わざるを得ないと厳しい。こうした論法は、2011年のLocalism Billのときにこのジャーナルで議論されたP.Allmendinger教授らによる批判的論考を思い出させます。

4つ目(p101-103)。日本にも来日したレディング大学教授らによる「levelling up neighbourhoods – back to the very local future?」。政府は「neighbourhoods」を重視していると評価。けれども「地域間格差是正」という今回の白書のねらいを考えると、これまで課題となっていた近隣間での格差是正にきちんと対応できるかどうか見守る必要がある、と、一応ポジティブだが手放しではないとの論調です。

 

日本から見ていて少し擁護ぎみに解説すると、1番はこの白書の主目的は都市計画システム改革ではないので、「場づくり」のくだりは少し筋違い。けれども地域の視点からのコーディネート機能が弱いのではとの危惧は3つ目の論者も指摘するように最大の焦点だと思います。新法案(The Bill)での論戦に注目です(CCAと略されるcombined county authorityという組織の創設が最大の目玉)。2つ目の議論は、現時点ではやむをえない面も。やはり新法案(The Bill)での論戦にてその「正体」が明確に掘り出されるものと思われます。(4つ目は、「近隣計画」をウォッチしてきた本ブログの視点からも注目しています。)

 

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