観光立国の基本要素である「気候」「自然」「文化」「食事」のすべてが潜在力としてあると、日本の魅力を高く評価した『新・観光立国論』(⇒関連記事)。
その「食事」や「食事文化」を、「自然」や「気候」、さらにはその根底にある日本列島そのものの地球物理学的・地質学的・地球史的特質とからめながら論じたチャレンジングな本が、昨日出版されました。(巽好幸著、光文社新書1230)
たとえば次の文章はどうでしょう。
「このように、私たちを魅了してやまない讃岐うどんを生み出したのは、フィリピン海プレートの大方向転換だったのである。」
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「風が吹けば桶屋が儲かる」と同等あるいはもっと難解なこのような文章がたくさん出てきます。上の文章をもう少し長めに引用してみます。
「このように、私たちを魅了してやまない讃岐うどんを生み出したのは、フィリピン海プレートの大方向転換だったのである。そしてそこには、急激な地殻変動のせいで大河川がない上に雨が少なく、米栽培ができないという悪条件の中で、なんとか小麦を栽培し、それを使って一大食文化を築き上げた人々の営みがある。」(p116)
マグマ学者である著者が、このような形で次々と洗練された日本食と日本列島の関係を読み解く、これまでにないタイプの本です。
もう1つあげます。
「ワイン王国・山梨のテロワールは盆地特有の気候と、周囲の山地から運ばれた水捌けの良い土壌である。つまり、盆地が美味いワインを育んでいるのだ。だがここで満足していたのでは美食地質学とはいえまい。なぜこの地に盆地が形成されたのであろうか?」(p175)
「美食地質学」。ここで冒頭の『観光立国論』でバラバラに示される「気候」「自然」「文化」「食事」が構造化・理論化されています。まだ「されている」とまでは言えないとしても、その仮説が骨太に語られている。やや飛躍するところもあるけれども。
うどんは第4章、ワインは第5章、魚介類は第6章、日本酒が第7章。第3章は蕎麦と江戸東京野菜。そして、和食の原点ともいえる出汁(だし)、豆腐、醤油が第2章で分析されます。
最後にもう一つ大切なこと。このような美食の恵みは、火山や活断層、大地変動などのリスクと表裏一体であることです。リスクを知り尽くした著者が美食を論じ尽くすところに本書の魅力はある。旅するときにも持っていきたくなる新しい書です。
[関連図書]
・『新・観光立国論』
https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20150612/1434075701