南アルプストンネル

リニア新幹線の「難工事」とされる「南アルプストンネル(25キロメートル)」について、これまでその工事の実際について理解していませんでした。けれどもこのところ、政治的要因なども加わって「難工事」の度合いが増し、さらに最近では地震学者による『リニア新幹線と南海トラフ巨大地震』(集英社新書、2021.6.24刊)のようなこの事業への警鐘を鳴らすまとまった本も出て、さらには新型コロナ後の旅客需要への不透明感も加わって、「不確定要因」が積み重なっているように思います。

それでも、少なくとも「南アルプストンネル」とはどういうものなのか、トンネル工事に伴う「水問題」とはどういうものかくらいは知らないといけないと反省し、3県の工事状況の概要を把握したうえで、特に静岡県部分の工事の実際をみようと、国土地理院の2万5000分の1の地図「間ノ岳」「塩見岳」「赤石岳」3枚を購入して、そこに「南アルプストンネル」の線や、工事に入るための「非常口」や、水を抜くための「導水路トンネル」の場所を(だいたいのところで)地図上に書き込み、工事の実際や、現在問題となっている大井川の水について具体的にイメージできるようになってきました。

世の中に出ている工事概要はどれもポンチ絵風でどうもピンとこないのですが、こうやって具体的に2万5000分の1の地図に線を引いて(2次元)、標高差を見て(3次元)、工事箇所と大井川の落差などを考えてみると、どのような「難工事」であるかがヒシヒシと伝わってきます。言葉だけで最大限表現してみると、、、(複雑な部分は省略)

 

山梨側からゆるりゆるりとトンネルを登り静岡県内の長野県境寄りの1215メートルのピーク地点を超えると下り始めて長野県側の出口に到達します。25キロのトンネルを時速500キロで走るとしてこの間約3分。南アルプスはその上にそびえ立っているので、特に真ん中の静岡県部分を掘るにはどこかの地点からアルプス内部の「トンネルになるべき部分」にめがけて工事用トンネル(=非常口)を掘ることになる。非常口を掘り始める箇所は、トンネル工事で出る土砂の運び出しや作業員・作業用機材等の出入りを考えると道路に接続していなければならないので、南アルプスの谷沿いのどこかに設けることになる。2本のうち1本は、標高1340メートルの大井川沿いの「千石非常口」から堀りはじめ、標高1080メートルの「トンネルになるべき部分」までの3070メートル(標高差260メートル。1キロ当たり85メートル下がる)を掘り下げる。ようやく「トンネルになるべき部分」に到達したら今度は「トンネル」そのものを掘っていく。もう1本はいくらか上流に上った、大井川支流西俣川沿いの「西俣非常口」標高1535メートルから同じように「トンネルになるべき部分」まで掘っていき(延長3490メートル)、標高1210メートルのポイントまで到達したら「トンネル」そのものを掘っていく(標高差325メートル。1キロ当たり93メートル下がる)。さらにトンネル本体の工事で出てくる大量の地下水を排水するための「導水路」を、トンネルの標高1135メートル地点から大井川に向かって掘っていく。「大井川に向かって」といってもトンネル本体の方がかなり低い位置にあるので、大井川の下流側で自然に合流できる地点まで長いトンネルを掘る。実際には、トンネルの標高1135メートル地点から大井川下流側の標高1120メートル地点(椹島(さわらしま))までの11400メートルの区間に、傾斜が緩く長~い導水路トンネルを掘ることになっている(実際には大井川側からトンネルに向けて掘っていくものと思われる)。

 

話は100年前にさかのぼりますが、東海道本線丹那トンネル工事(7800メートル)は1918年に計画され1925年の完成をめざしていましたが、相次ぐ難工事や災害のため工事期間は大幅に伸び、完成したのは9年遅れの1934年のことでした。技術力は格段に進歩した100年後とはいえ、途中、活断層帯もあり突発的な出水なども予想される中での「南アルプストンネル」工事はこうして地図上でみただけでもたいへんな工事です。

今、「水問題」などのためにこれら諸工事がストップしている。

 

いつ、どのような突破口から「次」のシナリオが見えてくるのか、本日の時点ではまったく見当もつきません。テクニカルに各論を詰めて突破できるのか、政治的決着か、代替案探しになるのか、完成時期の大幅な延長か。事実上の凍結になってしまうのか。

 

以上のストーリーには最も北側をカバーする「間ノ岳」の25000分の1地図は直接関係ありません。けれども「大井川」は静岡市最北端の「間ノ岳」までさかのぼり、そこで終わっています。

「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」。

 

 

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