イギリス都市計画定点観測

「メイヤー」のいるCombined Authority (CA)に「統合決算」を導入

2024.12.20。マンチェスターCAと西ミッドランドCAに次期会計年度から「Integrated Settlement」を導入するとの発表がありました。分野や年度の枠を超えて地域主導で戦略的に資源を使えるこの仕組みは、中央政府と地方との個別のdeal(取引)で縛られていた地方…

『イングランド分権白書』を読み解く(その3) : イングランド全域で「Spatial Development Strategy」を策定する

イングランドでは以前、広域的・戦略的な都市計画として「Structure Plan」がありましたが、さまざまな問題が指摘され(特にローカルと広域の計画の重複)、廃止された経緯があります。 白書では、現時点で参考になる「Spatial Development Strategy」としてロ…

『イングランド分権白書』を読み解く(その2) : どうやって「Strategic Authority」で全域をカバーするか

日本でも地方分権が大きく進んだ際、「平成の大合併」が行われて、権限を受け止め効果的に行使できる地域主体の再編が進みました。今回の『イングランド分権白書』では地方政府自体の再編も視野に入れつつ、まずは広域行政を担う「Strategic Authority」をイ…

『イングランド分権白書』を読み解く(その1) :「Strategic Authority」で全イングランドをカバーする

12月16日に出たばかりの『イングランド分権白書』ですが、たくさん出てくる概念や用語が複雑なためすぐには理解できません。けれども何度も行ったり来たりするうち、そのツボのようなものが見えてきたので、3回に分けて読み解きます。 (その1): 地域からパワ…

English Devolution White Paper (イングランド分権白書)が出ました (都市は進化する271)

さきほど(2024.12.16現地時間13時半頃)、「English Devolution White Paper」がアップされました。ここでは「イングランド分権白書」と訳します。(⇒資料) 中央と地方との関係を根本的につくり変える包括的な内容であるため、白書全体が重要な内容となってい…

新NPPFに整合する「Local Plan策定計画(LDF)」提出期限が2025.3.12に

NPPFが2024.12.12に改定されたのを受け、翌日の12月13日に、「12週間以内(2025.3.12まで)にLDFを提出するように」と、各自治体の都市計画長(chief planning officer)に通知がありました(⇒[資料]のp5)。これに合わせ、2025.3.12から計画策定に新基準が適用さ…

NPPF(National Planning Policy Framework)の改訂~グリーンベルト政策の変更を中心に

106の質問を設けて9月24日まで協議を行っていたイギリス都市計画の政策フレーム(NPPF)ですが、その結果が12月12日に発表されました。新しいNPPFです(⇒資料1)。労働党政権が具体的に都市計画の改革に着手する第一歩ととらえます*。「新しい」といってもこれま…

ロンドンOxford Streetに建つ歴史的建造物の再開発計画が大臣により却下されました (その5 : 国の再決定により再開発計画が認められました)

ロンドンOxford Streetに建つ歴史的建造物の再開発計画許可が大臣のcall-inにより却下されたことに、開発当事者であるM&Sが不服を高等法院に申し立て、大臣の判断は誤りと判断された(2024.3.1)この案件の「その後」です。 「ほぼ全面的に大臣の誤りを認める…

ストーンヘンジのバイパス計画(その3) : 「予算不足で」事業自体がキャンセルに

Liverpool Street Stationの再生計画が大転換しそうなので、もしかするとストーンヘンジは、、、と久しぶりにこちらを見てみると、政権が労働党となり、そうでなくてもイギリスはBrexit後の財政不足で、バイパス計画自体がキャンセルされていました。「キャ…

ロンドンLiverpool Street駅の大改造計画が熱い議論になっています(その3) : 新計画発表される

昨日(2024.11.4)、ロンドンLiverpool Street駅を所有・管理運営するNetwork Railが、全く新しい駅再生計画を発表しました。メディア各社が続々と報道していますが、元をたどると出し元は「Network Rail」で、都市計画手続きの前段の、提案主体による「協議」…

「ロンドン通勤者のオフィス回帰はとても遅れている」

本日の日経夕刊(3p)に、「ロンドン、出社「週2.7日」 主要6都市で最低水準」と見出しのついた小さな記事が出ています。短い記事のためほぼ見出し通りの内容で、その原因は通勤費の高さとしています。ただ、在宅勤務の利点に通勤費用の節約をあげる労働者割合…

「English Devolution Bill」前夜

新政権がめざす地方分権の基礎になると考えられる「English Devolution Bill」がもうすぐ国会に上程されるのではないかと思われます。Power Up Britain (その2)では、 「計画によればさらにそれを進めて、どの地方自治体も周囲と相談・調整して「Combined Au…

「Passenger Railway Services (Public Ownership) Bill」は上院第二読会に

夏休みが明け、9月3日より国会が再スタートしました。 下院で審議がスタートした標記法案ですが(⇒Power Up and Planning(その6))、第二読会のあと一般的な委員会審議によらず、「Committee of the whole House」という下院の全議員で代案を出し合い審議する…

「都市計画システム改革の提案」について協議はじまる(2024.9.24まで)

2024.7.30に、「Proposed reforms to the National Planning Policy Framework and other changes to the planning system」とのタイトルがつけられた都市計画システム改革提案があり、協議(パブコメ)がはじまっています。新政府の考えを述べたあとに「Q」が…

Parallel Parliament (イギリス国会における立法過程ウォッチ)

先週はじまった国会に法案が続々と上程され審議がはじまっています。 「Parallel Parliament」は、立法過程がリアルタイムでウォッチできるサイトで、出し元の省庁の政策、国会で説明・答弁している大臣等、これからの審議予定、最新の審議結果(審議そのもの…

Power Up Britain (その6) : 法案が上程されはじめました

上下両院に、選挙前から準備していた法案が次々に上程されはじめました。初日の18日(現地時間14時/日本時間22時時点)で、下院には2本の法案が上程されており、うち1件が「Passenger Railway Services (Public Ownership) Bill」(⇒資料)です。これは、運営を…

Power Up Britain (その5) : 諸分野と法案(35件)等の説明

さきほど「国王のスピーチ」が終わりました。 それを前後して、首相官邸ホームページに、新政権が上程する予定の法案をわかりやすく解説した資料が掲載されました(⇒資料)。というより、「国王のスピーチ」は(想像とは異なり)分野ごとの政府方針と関連法案名…

【研究ノート】Power Up and Planning (2024.7-) [2024.12.22更新]

2024.7.4のイギリス総選挙で労働党が圧勝し、旧政権が掲げた「Levelling-up」が転換しました。14年ぶりの政権交代ではありますが、社会経済の変化をより構造的にとらえると、これは、1970年代末頃から主流となった新自由主義の限界が放置できないレベルにま…

Power Up Britain (その4) : 超長期の位置づけ

今回イギリスでは「14年ぶりの」政権交代になりましたが、もう少し歴史を長期でみると、1)戦後の「コンセンサス」政治(揺りかごから墓場まで)とその崩壊⇒2)個人に立脚した新自由主義とその限界⇒3)今回の政権交代、という区分ができそうです。 1)から2)への転…

Power Up Britain (その3) : メイヤー集合

7月9日。国会(下院)に当選議員が集まり、最初の顔合わせが行われました。7月17日の「国王スピーチ」までは、こうした顔合わせや宣誓などが行われるもようです。 同じく7月9日。大都市圏のメイヤーが首相官邸に集まり、初顔合わせをしました。選挙のあと週末…

Power Up Britain(その2) : Local Growth Plan

7月17日に「国王スピーチ」があり、その翌日の7月18日より国会がはじまります。この日より法案提出が可能となるということなので、労働党が“影の内閣”時代にどれだけ準備していたか、興味の湧くところです。 (その1)で言及した資料では、地域ごとに「Local G…

Power Up Britain (都市は進化する232)

2024.7.4のイギリス総選挙の結果、事前の予想通り労働党が圧勝しました。イギリスはこれからどのような方向に向かうのか。 それを一言で言い表したのが「Power Up Britain」です。あれっ? 保守党がやってきた「Levelling Up Britain」と何が違うの? 今回の…

「Mechanisms of metagovernance as structural challenges to levelling up in England

「レベルアップおよび再生法」の裁可(2023.10.26)から半年。施行される規定が徐々に増えてきました。法の目的そのものがある意味大風呂敷で規定も多岐に渡るため、「この法律により本当にイギリスはレベルアップして再生できるのか」のようには問いにくく、…

ロンドンLiverpool Street駅の大改造計画が熱い議論になっています(その2)

「この決定は、すべてのロンドンの、そして英国の歴史的建造物が将来どのように扱われるのかの方向性を決定づけることになるだろう」(London Evening Standard, 2023.10.25)とも表現されたロンドンLiverpool Station駅の再開発についての議論は、いわゆる世…

ロンドンOxford Streetに建つ歴史的建造物の再開発計画が大臣により却下されました (その4 : 大臣の決定は誤りとの判断が下されました)

ロンドンの繁華街における再開発計画を大臣が却下したことを、M&Sが不服として高等法院に訴えていた重要案件について、2024年3月1日に高等法院の判断が示されました。ほぼ全面的に大臣の誤りを認めるもので、国の対応にもよりますが、なかなかこの判断を覆す…

ストーンヘンジのバイパス計画への2度目の申立ては却下される

2023年9月4日の記事で紹介した高等法院への標記申立てですが、2023年12月に3日間のヒアリングがあったあと、2月19日に却下が言い渡されました。一応その判断書を[資料]とします。 却下の根拠としては、申立てられたさまざまな「error of law(誤った法の適用)…

「Street vote development orders」に関する協議

昨年成立したLevelling-up and Regeneration Act(レベルアップおよび再生法)の中に、街路単位で将来可能な開発の内容を決められる「Street vote」という条項があり、その具体化に向けた協議が行われています(⇒資料)。2023年12月22日に公表され、2024年2月2日…

Levelling-up and Regeneration Act 2023 (都市は進化する185)

「Levelling-up and Regeneration Act 2023」が10月26日の裁可により成立し、本日からようやく「Legislation.gov.uk」サイトで検索できるようになりました。 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2023/55/contents/enacted 本記事を「【研究ノート】Levell…

上院「第三読会」を経て国王の「裁可」(=法の成立)へ (レベルアップおよび再生法案審議過程(その14)) [2023.10.26更新=最終]

上院「報告ステージ」がさきほど終わり(現地時間9月18日午後9時半すぎ)、「第三読会」が9月21日に予定されました。ほぼ終局だと思います。最終法案も間もなく公表されるものと思われます。「裁可」までのプロセスをここに書き足していきます。 [2023.9.20追…

『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』(文庫版)

最近購入した文庫本。ちくま文庫2023.8.10刊。ブレイディみかこ著。 最初のエピソード「刺青と平和」を読みながら、「あれっ? この本、既に買った記憶がある、、もしかすると」、と思いながら軽いので手放さず読み終え、既に買ってあったかもしれない単行本…