『THE CITY AFTER ABANDONMENT』

どこかで観た映画のタイトルみたいな雰囲気も漂いますが、放棄された都市のこれからを真剣に、かつ理論的・実践的に考える最先端の図書です。
Margaret Dewarら著、University of Pennsylvania Press、2013刊。
「空き家」「空き地」問題などという個別の課題を超えて、都市のかなり広範な部分に投資がなされず放棄されていくとき、どのような都市計画が可能かを模索しています。
例えば第1章。「Community Gardens and Urban Agriculture as Antithesis to Abandonment」とのテーマで、放棄地を都市農地として活用する方向を論じています。そういうのだったらNHKで観た、という方もいらっしゃるかもしれませんが、ここでの論はいくつかの点で今までのものとは異なります。第一に分析は歴史的で、19世紀末から第二次世界大戦までの間にもこうした取り組みは5度ほど(米国内で)経験があったといいます。今回のものはそれらとどう違うのか。さらに近年の分析対象としてデトロイトセントルイスを対照的な都市としてとりあげ、「なんとか再生できる」という希望のもてないデトロイトでとりうる方法(実際にみられる方法)を、セントルイスとは異なる方向として描き出していきます。
本書を貫く全体のコンセプトは、もはや「なんとか再生できるわけではなくなった」都市における新しい都市計画の方法、という意味での都市イノベーションのあり方の模索です。
例えば「rightsizing」という概念がよく出てくるのですが、第12章の「Rightsizing Shrinking Cities:The Urban Design Dimension」では、「なんとか再生できるわけではなくなった」都市のこれからの方向を「Patchwork Urbanism」と呼び、「Extensive Shrinkage」(もはや「公園」や「宅地」のような近代的な土地利用ではない、新しいさまざまな土地利用が混在し市街地の放棄が進んでいく)、「Growth in Isolation」(とはいえそうした中にポツンと小島のような可住地や開発地が生き残る)、「Growth in Connection」(中高所得者には選ばれないとしても低中所得者にとっては一定の条件さえ整えば住みうる近隣として再生できるエリアもなくはない。いや、あるのではないか。そのようなデザインを開発しなければならない)の3つの方向を示しています。
なんとも寒々しい21世紀と言わねばなりませんが、日本全国を回ると、程度の差こそあれこうした方面での都市イノベーションの現実的姿を模索しなければならないと思うこの頃です。