“A Research Agenda”シリーズ『A Research Agenda for New Urbanism』

都市計画学会の学会誌『都市計画』では以前、(研究)テーマごとに研究レビューが毎年掲載されて、各分野で何が課題になりどのような研究が望まれるかなどの情報が凝縮されていました。けれどもそれは次第に、「その1年間に都市計画学会誌に掲載された論文全リストおよび解説」のようになり、「毎年リストをつくってもあまり意味ないね」ということになり、2年に1回あるいは必要に応じてとなり、ついにはこうした形のレビュー自体がなくなってしまいました。廃止されてからかなり時間が経ちます。

 

“A Research Agenda”シリーズの1つ『A Research Agenda for New Urbanism』(Edward Elgar 2020。編著者はEmily Talen)を手にしたとき、冒頭のような経緯を思い出すとともに、このような解説書が今日必要であると改めて感じました。この“A Research Agenda”シリーズは、「今、都市計画分野で必要とされている研究は何か」についてシリーズで出版されているもので、『A Research Agenda for New Urbanism』も含めて16冊出ています。「研究レビューの本なんて出版しても売れないよネ」と思うのですが、たまたまこの本が目に留まり、読んでみるととてもよくできている。どう「とてもよくできている」かというと、「ニューアーバニズムといえばこの人だよね」という編者が「ニューアーバニズム、いいよネ」といった態度にならず、「1990年代当初は追い風だったニューアーバニズムだが、常に批判にさらされ、21世紀に入ると他の対抗勢力が強くなり(タクティカルアーバニズムは対抗勢力ではないがその1つ)、さらに近年では都市における不平等問題がアメリカでは強くなりニューアーバニズムはその原因にもなっている、そしてさらに、自動運転技術が進みe-コマースが伸びてくると「公共交通」や「商店街」の意味や位置づけも変わりニューアーバニズムも変わらなければならない」という自覚のもとに、それぞれのエキスパートにテーマを割り振って、『A Research Agenda for New Urbanism』を真剣に書いている。だからおもしろいし研究テーマや関連文献も豊富に示されていて引き込まれる。

 

1つだけ残念なのは、『A Research Agenda for New Urbanism』はアメリカにおける都市計画課題を(本人たちは意識していないかもしれないが)扱っていることです。それを乗り超えるべく発想されたと思われるのが第10章で、アメリカ発「ニューアーバニズム」と国連発「New Urban agenda」を比較しつつ、これら2つと1933年の「アテネ憲章」を比較して、さまざまな「これからの(研究)課題」を導き出しています。そのような章もありますが、日本(発)の都市計画研究のためにはやはり日本(発)の“A Research Agenda”を論じる必要があることを感じさせられた、良き1冊でした。

 

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