『PLANNING ABU DHABI』

都市計画分野における“UAE初の女性博士号取得者”Alamira Reem Bani Hashimによる、アブダビ都市計画史。副題が「An Urban History」。Routledge、2019刊。

ただの都市計画史ではありません。アブダビという首長国の建国の歴史やアブダビが首長国連邦の首都としての役割を担おうとする話をはじめ、「内部から見た」アブダビの、アブダビ都市計画の、UAEの首都アブダビの歴史をていねいに描写した、これまでにあまり類をみない作品です。たとえば、「内部から見た」ものは多数ありますが、「内部」だった本人が語ると主観的になりすぎ、かといって「外部から来て内部に入り込んだ」研究者がどれだけ内部に迫れるかというとたいていは一部の事実しかつかめない。ましてや家族経営に近いアラブ首長ファミリーがどうやって都市計画していたかなどということを「客観的に」書こうとしても、そう簡単に書けるものではない。

前置きはこれくらいにして、いくつかこの本の「面白さ」を点描します。

 

第一。大きくいうと、3代の首長がどうやってアブダビの都市計画をしたかが、章立てとも対応して描かれます。内容は読んでのお楽しみに。これだけでもおもしろいです。

第二。首長は政治家なので、それに都市計画の専門家がどう仕えたかの関係が相当リアルでおもしろい。首長といってもプランナーでもある場合もあるので(プランナー的性格を強く持つので)、首長-専門家の関係のめまぐるしい変化がおもしろい。たいていは首長は専門家をすぐにクビにできるという関係。なかでもおもしろかったのは日系アメリカ人のKatsuhiko Takahashiの話。プランナーとはあくまで選択肢を示すところまでで決定するのは政治家である、という関係をめぐる葛藤が最も先鋭に出ている。(短期間で交代となる。)

第三。首長が常に国民のために都市計画を行おうとしている姿。リアルにみると、土地配分等により、独特な都市計画がなされてきた事実を知ることになる。ある意味、かなりの衝撃的な事実。

第四。現行のマスタープランである「Abu Dhabi 2030」に込められた意味。また、一度改定された際の考え方や方法の変化。

 

読み方によっては、まだまだいろいろな発見があるはず。

地図も豊富で、公文書も1つ1つに出典が示されています。インタビューもふんだんに盛り込まれている。こうしたすべてのものを駆使して、しっかりしたストーリーを構築しています。

 

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【in evolution】世界の都市と都市計画
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