地域人材育成の観点から『資本主義の新しい形』を読む

昨日の日経新聞の「UPDATE 知の現場」で取り上げていただいた地域実践教育・研究に関連して、『資本主義の新しい形』(諸富徹著、岩波書店2020.1.28刊)の第2章が、とくにこうした活動や活動を行う組織やそれらにより創出される価値についての理論的・経済学的基盤を提供していると思われるので、少し膨らませてとりあげます。

キーとなるのが、資本主義の根幹が知識社会化により大きく変化していることと、それに伴って価値を生み出す源泉・方法・組織(の在り方)が変化していること。

『資本主義の新しい形』第2章では、一般人向けのわかりやすい言葉で、「資本」「労働」「消費」が「モノの大量生産→モノの大量消費」というかつての「資本主義」からいかに変化したかを整理しています。そして、

「生産現場に求められるのは、工業社会時代の均一性、正確性、規律から、知識社会時代における多様性、柔軟性、創造性へと大きく変わりつつある」(p42)。そしてそこでは「問題解決の技能」「問題発見の技能」とともに「戦略的媒介者の役割」が求められる(p45-46)。

『資本主義の新しい形』では第3章以降次第に「脱炭素社会の構築」を中心すとるマクロ戦略に話が展開していくので、そちらのほうではなく、第2章のもう1つの成果(の紹介)をじっくり見てみます。それは、p65にあるコラードらの研究による「企業の無形資本への投資支出額の推計結果」。現代資本主義では「資本」の内容が工場や生産設備などの「有形」なものから「無形」なものへと大きくシフト。発表されるGDPが伸びないのは「無形」資本の増大をキャッチできていないばかりか、キャッチする方法も確たるものがなく、さらにいえば、日本企業では「無形」資本の重要性に気づくのがおそく(気づいてさえいない、あるいは気づいていてもどうしたらよいかわからない、役員会で理解がない)、なんとかしなくてはいけない。

ということで2005年の研究成果が表になっているのですが、この研究では無形資本を「情報化資産」「革新的資産」「経済的競争能力」の3つのカテゴリーに分けています。結果を先にみると、1998-2000年にはGDPの13.1%を占めていた(アメリカの話)。近年の先進国のGDPの伸びはゼロに近いので、かなり大きな部分をカウントできていない。

特に目を引くのが「革新的資産」「経済的競争能力」の内訳で、なかでも「科学技術によらないR&D」(革新的資産の一部)の1490億ドル。「科学的研究開発投資」が1840億ドルなので、それと同等の投資がなされている(いた)ことになり、「科学技術によらないR&D」とは、「その他、製品開発、デザイン、調査に関連する支出」とされます。なお、全体の半分を占める「経済的競争能力」の中身は「ブランド資産(2360億ドル)」「企業特殊的な人的資本(1160億ドル)」「組織構造(2910億ドル)」で、こちらはどちらかというとその企業が長年培った(あるいは急速に確立した)人材・組織・ブランド力に関連する、結果としての生産物(これはGDPにカウントされる)というより「結果として生産物を生み出せる能力」への投資。

 

地域人材育成の観点から『資本主義の新しい形』を読むと、

「これから求められる人材は多様性、柔軟性、創造性を発揮でき、持続的に新しい価値を生み出せる能力をもつ人材であり、そこでは「問題解決の技能」「問題発見の技能」とともに「戦略的媒介者の役割」が期待される。現代知識社会に求められる価値を生み出すには、「革新的資産」として「科学的研究開発投資」に加えて「その他、製品開発、デザイン、調査に関連する支出」を投資と考えて重視するとともに、人への投資を行い組織としての「経済的競争能力」を高めることが必須である。」

 

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