首都直下地震等による東京の被害想定(2022.5.25発表)から考える3つのこと

6月23日を発行日とする日経アーキテクチュアp14に、「首都直下地震の被害想定を10年ぶり改定」と題する記事が出ています。およそ1か月前にこの改定報告書が発表されたとき、各メディアが一斉にそれぞれその内容について報じましたが、500頁近くもあるこの報告書に目を通すことができないまま放置していました。ある意味、こうして「1か月遅れで」報じていただいたおかげで(内容も簡潔にポイントが整理されていてわかりやすい)、被害想定報告書を手に取り(実際はネット上の画面で見て)目を通す機会となり、3つほどかなり主観的にこれはと思った点、とりわけ都市計画の立場からテクニカルに重要と感じた点を書き留めてみます。

 

第一。時間帯別被害の内容。日経アーキテクチュアのこの記事でも被害が最大となる「都心南部直下地震」の場合の「風速が8m/秒・冬季・夕方」の「死者6148人」をとりあげていますが、報告書を読んでいくと、「死に至る要因別・発災時間帯別」にこの数字を見ると随分深くまで災害の状況がつかめる(想定ではあるが)ことがわかりました。「風速が8m/秒・冬季・夕方」のうち「夕方」以外の「昼」「早朝」を加えてみる。「死に至る要因」のうち主要な2要素である「ゆれ/建物被害」「火災」に着目する。そのようにして死者数だけみると、

「夕方」6148  その内訳「ゆれ/建物被害」3209 「火災」2482
「昼」 3547  その内訳「ゆれ/建物被害」2403 「火災」 831
「早朝」5879  その内訳「ゆれ/建物被害」4916 「火災」 671

となります。ある意味、「風速が8m/秒・冬季」という場合、「火災」が延焼して、、、ということを瞬間的に感じるのでどうしても記事には「夕方」(夕食準備で火を使っている)に着目して6148名で最大、ということだけに注目が集まりますが、早朝に寝ていて建物被害が圧倒的に多かった阪神・淡路大震災がそうであったように、「早朝」の「ゆれ/建物被害」4916人というのがとても大きな被害です。ちなみにこの場合、外の風速は関係ないだろうと思って「風速が4m/秒・冬季・早朝」を見てみると「ゆれ/建物被害」による死者は4916人と変わりません。ということはおそらく、「冬季」でなくても地震がいつきても風がどう吹いていても「早朝」の「ゆれ/建物被害」は4916人と想定される。

第二。第一のこととも関連しますが、第7章で検討している被害軽減効果のうち「耐震化率の向上」。92%まできている耐震化率を100%まで高められると、「3209人」の死者は「1154人」へ6割減る(35.96%)。この「3209」という数字はさきの「夕方」の場合なので、「早朝」の「4916人」に0.3596を掛けると1768人となり、3000人以上減らせる。火災対策も引き続き重要だけれども耐震化対策はもっと強調されてよい。

第三。これは切り口がだいぶ変わりますが、火災対策の方に関連する「不燃領域率の向上」。この数字は少し古く2011年から2016年への変化につき、木造密集地域の整備地域ごとに数字の変化が出ています。「70%」を目標値として、5年間でどれだけ「不燃領域率」が向上したか。地域によりかなりのバラツキがあるなかで、たとえば「2016年から2021年の5年間は2011年から2016年までの変化と同じだったら」として「5年」を「10年」に伸ばしてみると、70%に届きそうな地域がかなり出てきます。「努力による結果が次第にあらわれてきているので、さらにもう一息二息がんばりましょう」と言えそうです。けれども第二の点にあるように、「防火」のほうでがんばると同時に「耐震化」も効果はかなり大きい。そこで、両者が地域的にどのようにかかわっているのかも見極めつつ、現時点において、より効果の見込める方向を見極めることも重要そうだと考えた次第です。

 

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