『RESCALING URBAN GOVERNANCE』(2010年代のイギリス都市計画を理解する枠組み)

「2010年代のイギリス都市計画はどんな感じでした?」と問われてどのように答えるか?

実際、2021年2月にそのような機会がありその際用意した枠組みが「イギリス都市計画をウォッチする~リ・スケーリングと都市計画~」でした。(下図)

ここでは「グローバル」-「EU」-「地域(region)」-「都市圏(都市地域)」-「基礎自治体」-「近隣」の6つのスケールを設定して、それぞれに現れている特徴的な動きを、その要因とともに示したうえ、最後に「都市計画への影響」をとりあえず書き並べています。

 

2021年に出た『RESCALING URBAN GOVERNANCE』はほぼこうした問題意識から書かれたもので、「2010年代のイギリス都市計画はどんな感じでした?」についてリヴァプール大学の2人の専門家(JUHN STURZAKER / ALEXANDER NURSE)が体系的に論述した基礎資料といえそうです。副題は「PLANNING, LOCALISM AND INSTITUTIONAL CHANGE」。ROUTLEDGE刊。
驚いたことに(というか誰が考えても)この図書の章構成は上図とほぼ同じで、あえて並べると第1章が「グローバル化」とリ・スケーリング全体の見取り図、第2章が「EU離脱」に伴うスコットランドなどのスケールの調整・葛藤、第3章が「地域」政策廃止、第4章が都市圏(都市地域)、第5章が「基礎自治体重視」(というより本当に重視されているの?という問い)、第6章が「近隣」。第7章は結論なので、ほぼ同じです。ただし、「2010年代のイギリス」の(ガバナンスの)リ・スケーリングはきわめて複雑・独特でさまざまな方向があり、「2010年代のイギリスはこうでした」と明確かつ断定的な「見方」を示すのが難しい。あえていえば本書では2008年のリーマンショックを契機に緊縮財政(austerity)が強い与件となりそのような中でもがき苦しみながら他国に後れをとるまいと編み出したというか変容をとげた結果がこのようだった、としています。けれども読み進めると、「このスケールのこの動きは良い評価だったけれどもまた別の動きがあり必ずしも全体でみると成功しているとは言えない」のような感じで、どのスケールも評価の決め手が書かれているわけではありません。「2010年代」を一目で読み解く上図も参考にしながら、自由にスケールを行ったり来たりしてみてください。

 

現在国会でも審議中の「levelling-up」ですが、その中心はやはり、上図でいうと上から4つめの「都市圏(都市地域)」だと思います。交通や住宅なども含む日常的な生活圏であるこのスケールの都市計画がしっかりすることで生活の質は高まり、と同時にこうしたスケールでの企業活動が活性化されそれぞれの都市圏(都市地域)に特有な産業がクラスタリングされて強みを発揮する。大学などの研究機関も「地域が連携し「住みたい都市」をプロデュースする」主役のひとつとなるはず(べき)である、そのためにはどうしたらよいか? との問いに答えるためのツールの1つが現在審議中の法案のCCA(Combined County Authorities)ということになるのでしょう。
実はイギリスでも、1989年にベルリンの壁が崩壊して1990年代以降のグローバリゼーションが全面展開する際、「都市地域」というスケールこそが国際競争を勝ち抜く重要なスケールだとの認識のもと、(1980年代にはじめていた都市開発公社方式なども含め)さまざまな「地域」のデバイスをつくったりつぶしたりしてきました(特に政権交代があるたびにつくったものがつぶされやすい。つくった側からみると「つぶされたものを作り直す」)。そういう意味では、「2020年代(以降)」を展望するには「1990年以前」「1990年代」「2000年代」「2010年代」を包括的に見通す「見方」を手に入れる必要があるのかもしれません。

 

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(参考) 本ブログ右帯「リンク」欄の「【研究ノート】Localism and Planning」は、2010年代のイギリス都市計画をリアルタイムで10年間ウォッチしたものです。
https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20131223/1387799666

同様に「リンク」欄の「【研究ノート】Levelling-up and Planning」は、2020年代のイギリス都市計画をリアルタイムでウォッチしようとしているものですが、「2020年代の枠組み」とはどういうものかがわからないままはじめているので、どうやって地ならしをしようかと検討中。「levelling-up」関係の記事がもう少したまってきたところでフレームをつくろうと思いますが、まだ「and planning」の方の動きが明確になっていないので、多少時間がかかるかもしれません。
https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/2022/05/18/100512